アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「ゆれる」感想 あの笑顔の意味に、僕は悩みゆれる

 

映画には鑑賞者に委ねるという終り方があります。
エンディングの先に想いを巡らせ楽しむ、嫌いな終り方ではありません。
しかし、ど〜〜しても真実を知りたいという作品が何本かあります。

インセプションのあのコマは回り続けるのか止まるのか?
マーターズの最後の言葉は何と言ったのか?

そして今回紹介する「ゆれる」
その最高峰です。

あの笑顔の意味は?
あの後どうなったのか?

この映画…ゆれます…

2006年/日本
監督:西川美和
出演:オダギリジョー、香川照之、真木よう子、伊武雅刀、新井浩文、ほか
上映時間:119分 

f:id:hagane-mk:20170712060206j:image91点

ざっくりあらすじ

あの橋を渡るまでは兄弟でした

故郷を捨て売れっ子カメラマンとなった早川猛(オダギリジョー)
彼は兄、稔(香川照之)の誘いもあり母の法事の為に帰郷する。
そこで幼馴染 智恵子(真木よう子)とも再会。
3人は地元の渓谷へと遊びに行く。

そこで起きる出来事が3人…いや関係者全ての人生を狂わせるとも知らずに


我はエロティカ・セブン 

エンディングの笑顔の意味とその先について書く為には、そこに至った経緯を書かない訳にはいきません。
物語を最初から振り返りましょう。

カメラマンの猛が職場から出かけるところから始まります。
出かけ前にアシスタントの女性にキスをかまします。

職場の女に手を出すスケコマシ…いや言葉が少し汚いですね。
ヤ〇チンである事が分かります。

オダギリジョーの風貌にピッタリの役です。
オダギリジョー、斎藤工、金子ノブアキ
さすがヤ〇チン三銃士のトップ
(そういう役が多いって意味ね)

彼は実家に帰る前に実家が経営するガソリンスタンドに寄ります。
そこに智恵子がいました。
彼女に気づき顔を伏せる猛と声をかけようとする智恵子に
かつて何かしら関係があった事が分かります。

実家に着くと親戚一同が揃っています。
しかし、猛は息子なのにまるで部外者のような扱い。
特に父のあたりはキツイです。
そんな中、兄の稔だけは優しく昔のまま接してくれます。

夜、ガソリンスタンドに行くと兄と親し気に働く智恵子の姿を見かけます。
兄が智恵子に想いを寄せていることも垣間見えます。

智恵ちゃんアガリなら俺食事がてら家まで送って行くよと猛
おお、頼むよ行っといで行っといでと兄

車中、猛は智恵子に言います。

「まさかウチで働いてるとはね、なんか兄貴と仲良さそうだったじゃん、ちょっと妬けたわ…兄貴、お前の部屋行ったことあるの?」
「な、ないわよ!」
「なら、俺行っても良い?」

ウマ!非モテ諸君はオダジョーのテクを学びましょう!

次のシーンではもうベッドシーンです。

ハヤッ!流石三銃士

「おい、舌出せよ!」

エロ!もはやヤリ〇ン王です。

ここから僕は「湯を沸かすほどの熱い愛」までしばら~くオダジョーが嫌いになりました。

深夜帰ると兄はまだ起きていました。
「あの子しつこいだろ?」
ドキッとする猛
「あの子酒癖がちょっとね」
「あ、ああ...意外と飲めるんだね」
ホッとする猛
「明日、三人で蓮見渓谷に行こうよ、昔家族でよく行ったあの渓谷に」

こうして運命を狂わせる渓谷へ三人は行く事になるのです。


ヘイ!ヘイ!事件だッ!ヘイ!事件だッ!

渓谷で子供のようにはしゃぐ兄。
それを見て
「俺ちょっとクソしてくるわ」
と2人から離れる猛。
稔と智恵子が何気ない会話をしていると橋の上にいる猛を見つけます。

私、ちょっと行ってくると猛の元に向う智恵子。
しかし智恵子が橋に着いた時には猛はもう橋を降りていました。
智恵子を追いかけて来たのは稔。
その様子を何気なく見上げる猛。
何やら揉めてるような様子...

そして猛の顔が驚愕の表情に

急いで橋に辿り着き呆然とする兄に

「智恵ちゃん落ちたのか?」

何かを伝えようとする兄を遮るように猛は話しかけ続けます。

「そうだ、警察を呼ぼう」

警察に何か見たかと尋ねられる猛は何も見てないと供述。

ん?ん?

事実はまだ分からないが兄をかばいたいなら、「智恵子が自分で落ちたのを見た」って言った方が...

結果、智恵子は遺体で見つかり事故という事になります。
それを聞いて安心した猛も東京に帰ることにしました。

兄に対する愛情は感じるものの智恵子の死に悲しみの欠片も見せない猛に

こいつはどういう人間なんだ?

と僕の心は揺らいでいました。

しかし物語はここから更に大きく揺れ動きます。
自暴自棄になった稔はガソリンスタンドで客に暴力を振るい警察へ

そして、

あれは事故なんかではなく自分が殺したと自白するのです。

f:id:hagane-mk:20170714010758j:image

揺れる想い体じゅう感じて 

殺人容疑者として留置された兄を救おうと猛は動きます。
弁護士でもある叔父に依頼。
叔父は猛に尋ねます。
「本当に君は何も見ていないのか?」
「何も見てません」

このやり取りの度に橋の上の回想に入りますが肝心な所が映りません。

そして裁判が始まります。
検事の読み上げる供述に稔は答えます。

僕は危ないと思って手を添えたりしなければ良かったと思っています
彼女が凄い声をあげて僕の手を払ったもんですから
何だよって感じで彼女の体を突き飛ばしました

ああ言っちゃった...と落胆する猛と僕でしたが稔は続けます

そうすると川端さんは尻もちを着いたんです。
彼女を起そうと思って手を伸ばしたんだけど彼女は後ずさりして...

落としてはいないです。
でも僕があそこにいなきゃ、彼女はまだ生きてるんですよ!

こうなってくると話は別です。
情状酌量狙いではなくなります。
有罪無罪かです。

論点はそこに殺意はあったかなかったか
検事は当然そこを執拗に攻めます。

あなたは彼女に好意を抱いていましたか?
答えはYES

突き飛ばされたあと差し伸べられた手に恐怖を感じると思いませんか?
答えはYES

彼女を危ないと思い支えたあなたに彼女は何と言いましたか?
やめてよ、触らないで

なぜそう言ったと思いますか?
僕の事を生理的に嫌なんだろうと...

その時あなたはどう思いましたか?
正直惨めな気持ちに...

叔父も頑張りますが、裁判は不利な方向へ進みます。
しかし心の問題だけで検事にも決定打はありません。
そこに検事が問う質問に思わぬ答えが

被害者の膣内に微量の精液が見つかりました。
あなたのものではありません。
あなたは彼女に恋人がいるのを知っていた、嫉妬に狂いあなたは...違いますか?

.......そうだったんだ…
そんなこと全く気づきもしなかった。
僕はその方にも大変なご迷惑をかけてしまった。
稔は傍聴席に深々と頭を下げます。

猛は複雑な表情...だって精液の主ですからね。

しかし裁判官の心象は大きく変わります。
もはや決定打のない検事に対する今の状況は無罪に限りなく近いです。

その夜、身内は既にお祝いムードの宴会。
しかし猛だけは神妙な面持ち。
テーブルに並べられた船盛の死んだ魚の目と猛の目がシンクロします。

この数日前、猛と父との間にこんな会話がありました。

「落ち着いたら智恵ちゃんのうちにお酒でも持って行こうよ」
「そんな事したら化けてでられるぞ、あの子はコップ1杯でコロだからな」

初日の夜の兄との会話が思い出されます。
兄貴は自分と彼女の関係に気付いていた。
精液の主が自分であることも。

そして猛は証言台に立つその前に稔との面談に向います。

以下、最重要のネタバレが投下されます。
未見者はご退席下さい。

f:id:hagane-mk:20170714054207j:image

揺れて揺れて今心が何も信じられないまま
咲いていたのは

面談の席、稔と猛との会話。

「あの橋に誘ったの俺なんだ、お前智恵子に東京に私も連れってって言われてたんだろ? あんな女に弟の邪魔させられるかっての」

「ふざけんなよ!」

「なんつって、なんつって、おれがそんな事言う訳ないだろ」

「ふざけるなって事実を言えよ事実を!」

「もういいじゃん、だってお前は俺の無実を事実と思ってる?違うでしょ?お前は自分が人殺しの弟になるのが嫌なだけだよ」

「ふざけるな、なんで弟の俺が兄貴を疑うんだよ!どうしてお前は俺の事を疑ったりしねぇって言ってくれないんだよ!」

「初めから人を疑って、一度も信じたりしない...そういうのが俺の知ってるお前だよ...猛...」

激怒し猛は席を立ちます。

そして証言の日です。
少し長いですが猛の証言をお読みください。

兄はとても真面目で優しくとても正直な人間でした。
僕は誇れるものが何もない人間です。
が、兄だけは違いました。
兄のことだけは信じられたし、兄とだけは繋がってたんです。

全て過去形の言葉に胸がざわつきます。

それがすっかり変わってしまった。
あんな巧妙な嘘をつく人間じゃなかったんです。

弁護士は止めようとしますが、裁判官は尋ねます。
嘘とはなんです?

法廷での兄の発言です。
今まで僕は何も知らないふりをして来ました。
兄の事を庇いたいと思って、そして自分の事も庇って来たんだと思います。
でももう嫌になりました。

これを話すことで僕と兄とが引き裂かれて2人とも惨めな人生を送ることになったとしても、僕は元の僕の兄貴を取り戻す為に自分の人生を賭けて本当の事を話そうと思います。

僕は吊橋の上で智恵子さんに兄が詰め寄るのを見たんです。
グラグラ揺れる橋の上で2人は揉み合って彼女は兄に突き落とされました。
悲鳴をあげて落ちていきました。
僕は見ていました。

この発言に対して恐れと怒りを感じる僕と裏腹に稔は終始穏やかでどこか笑ってるようにさえ映りました。

判決は有罪となり兄は手錠をかけられ連れて行かれます。

そして7年の月日が流れます。

いくつもの日々を超えて 辿り着いた今がある
だからもう迷わずに進めばいい
栄光の架橋へと...

通常の生活を取り戻した猛の元に、ガソリンスタンドの店員(新井浩文)が訪ねて来ます。

稔さん出所です。
あの人は帰って来てくれるでしょうか?

俺には無理だぞ
俺はもう兄貴とは思ってないし、向こうもそうだ。

元の兄貴を取り戻す為って兄貴をブチこんで、俺には理解できねぇ!
あんたのやったことを俺は正しいとは思えねぇ!
俺が弟なら絶対しない!

そうだ!そうだ!
新井浩文よう言うた!

場面は変わり猛は母の遺品のホームビデオを観ています。
そこには父、母、稔、猛、家族の仲睦まじき姿が

猛の目には涙が溢れています。

そしてまたあの橋の回想が映ります。
今度は最後まで...

後ずさりして橋から落ちそうになる智恵子と、その腕を掴む稔。
が、稔の手から智恵子は滑るように落ちていきます。

稔は助けようとしてたのです!

なんであんな嘘の証言を?
なんで見てないという嘘を?

兄の元へ車を走らせる猛の映像に心の声が流れます。

誰の目にも明らかだ
最後まで僕が奪い、兄が奪われた
けれど全てが頼りなく儚く流れる中で
ただ一つ危うくも確かに架かっていたか細い架橋の板を踏み外してしまったのは...

僕だったんだ

今、僕の目には明らかな風景だ
腐った板が蘇り、朽ちた欄干が持ちこたえることはあるだろうか?

あの橋はまだ架かっているだろうか...


ここにその答えがある気がします。
猛はこれまで自分が稔に奪われていた側という意識があったのではないだろうか。

幼少期から青年に至るまで兄と自分に注がれる親からの愛情に差を感じていたのではないか
稔がいなければあの家にも自分の居場所があったんじゃないか
成功しても認めてくれない父からの愛情も得ていたんじゃないか
兄に対する愛情と嫉妬という感情の狭間で揺れ動いていたのではないだろうか

そのシーソーが最後の面談で負に傾いた
あまりに重く取り返しのつかない傾きがそこにあったと推測します。

一方兄、稔はその全てを感じとっていた。
感じとった上で自分の居場所創りの為に弟を排除した。
それでも弟は成功を収め、長年想いを寄せていた女性も簡単に奪われてしまった。

そこにも負の感情は芽生え、兄を牢屋に入れたという十字架を背負わせる為にあのような面談での会話で挑発した。

また好きな女性を間接的とはいえ殺してしまった。
その罪を罰せられたかった。
更には自分の居場所創りの為につくろってきた、

社交的で頼りがいのある良い人

そこから解放されたかった。
自分が創りあげたつまらなく単調で偽りの牢獄から解放されたかった。

その執行人に弟を選んだ

もちろんこれは僕の推測であり、正解などではない。
だが繰り返し鑑賞し至ったここまでの僕なりの結論です。


サヨナラバスはもうすぐ君を迎えに来て
僕の知ることのできない明日へ君を連れ去って行く

それでも今尚分からない事がこの映画にはあります。

そう、あの笑顔の意味とその先です。

稔を迎えに刑務所に行くが稔はもう出所した後、どこへ行ったのかわからないまま帰路に着こうとしたその瞬間

道路を挟んだ向こう側に稔を見つけます。

「兄ちゃーん!兄ちゃーん!」

叫び追いかける猛。
それに気づかずにバスに乗ろうとする稔

「兄ちゃーん、うちに帰ろうよ!」

そう叫ぶ猛に気が付き...

f:id:hagane-mk:20170714011514j:image

この表情にバスがかぶさりエンディングです。 

わからない、この笑顔の意味は何なんだろうか?
この後、稔はバスに乗ったのだろうか?
猛と共にウチに帰ったのだろうか?

おそらくバスには乗った。
ウチに帰る事は稔にとってはまた牢屋に入る様なものだから。

じゃあなぜ笑みを?

①二度と会う事のないと思えた弟に会えこぼれた純粋な嬉笑
②俺には帰るウチなんてないんだよという苦笑
③これからやっと俺の人生が始まるんだよという決別の微笑
④ウチを捨てたお前がウチに帰ろうと言うのか?という弟への失笑
⑤俺は罪を償った、お前はどうだ?という冷笑
⑥刑期を終えただけで俺たちの罪が消えた訳ではないんだよという嘲笑
⑦その全て、あるいは全く異なる意
⑧既に心は壊れていた...

僕にはわからない...観る度に解釈が変わる。
もっと言えば回想シーンすら全て猛の妄想である可能性まで感じる。
そこに答えはあるのだろうか...

おそらく僕はこの先何度もこの映画を観る
そして悩む、それをを繰り返すのだろう…きっと 

追伸、僕には10歳離れた兄がいる。
実家は自営業を営み兄がそれを継いだ。

僕は兄が継いでくれたおかげで自分は自由に外に出れたという負い目を持っていた。
ある日、兄が僕に言った
自分が継いだせいで本来お前も乗れるはずだったレールを俺が外したんじゃないかという負い目を感じていると。

二人で勝手に負い目を感じ合っていた。
男兄弟ってのは複雑です。
僕にとってこの映画は特別な映画です。

僕は兄にこの映画を観て貰いたい。
この感想を読んで貰いたい。
でも恥ずかしくて勧められない。

きっと兄ならこの映画の答えをくれる気がするのだが...

最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・ディア・ドクター
・永い言い訳
・重力ピエロ