生理的にどうしても苦手な顔ってのがあります。
これはなかなかやっかいで、好きな映画に出ようが、好きな役を演じようが、なかなか払拭出来るもんではありません。
安藤サクラ、彼女は僕にとってそんな存在だった。そう、だった過去形です。
この映画と出会うまでの話です。
2014/日本
監督:武正晴
出演:安藤サクラ、新井浩文、ほか
上映時間:113分
80点
ざっくりあらすじ
実家で自堕落な生活をおくる32歳、独身、女、一子。
妹との喧嘩をきっかけに実家を飛び出し、深夜の百円均一のコンビニで働きながら1人暮らしを始めた。
望む出逢いと望まぬ出逢いのなか、一子は痛みと苦しみそして喜びを学んでいく。
これは決して若くはない不器用な女の「恋」と「闘い」の物語。
サクラ、サクラ、今、咲き誇る
誤解を恐れずに言うならばこれはThe Sakura Ando Show である。
もちろん、ストーリーも他の俳優、女優も素晴らしい。
でもこれは安藤サクラを魅せる為の映画だと思う。
冒頭でも述べたように僕は安藤サクラが苦手だった。
この映画を観てる最中も、あ、やっぱ苦手...うわ、苦手だわと思った。
映画の冒頭、自堕落な生活をおくる一子が描かれる。
自堕落な女の演技といえばもらとりあむタマ子の前田敦子を思いだす。
あの自堕落さもなかなかだったが可愛さがそこにはあった。
本作のいつ洗濯した?という薄汚いピンクのスウェット姿で背肉をはみ出させながら尻を掻く安藤サクラには可愛さの欠片もない。
ブリッと屁をかこうものならその瞬間、停止ボタンを押してやろうと思った。
新井浩文との初デートの前日、勝負下着(百均で購入)を身に着けるシーンでも通常ならフォーーというところも死んだ魚の目でただただ画面を眺めてたし、
ベッドシーンでも新井浩文を羨ましいとは1mmも思わなかった。
脱いでいても一時停止しようとするどころか早送りしよっかなとすら思ってしまった。
まあつまり映画の大部分を過ぎるまで、これまでと変わらず苦手意識を持ったままだったし、苦手なもんはやっぱ苦手で玉ねぎはいくつになっても嫌いだなと思ったわけです。
あ、安藤サクラファンの方怒らないで下さい。もうすぐ褒めます。
サンドバッグに浮かんで消える
憎いあんちくしょうの顔めがけ 叩け!叩け!叩け!
じゃあどのへんから意識が変わったかというと、やはり新井浩文に捨てられてプロボクサーを目指すあたりからです。
ボクシングを始めだした頃はドタドタと鈍臭く、おいおいお嬢ちゃんダンス踊ってんじゃねえんだぞと定番のヤジを飛ばしてた僕も、お!となりはじめました。
バイト中の暇な時間にシャドウする姿なんてカッコよくて何回も巻き戻して見ました。
もう動きがキレッキレなんですよね!
クソムカつく店長の顔面にパンチ食らわせて店を辞めるところなんか鳥肌もんですよ。
働いたことのある人誰もが妄想することを一子がやってくれた!
もうこの頃には、一子に自分を投影させてましたね。
辞めたあと、いつも廃棄処分の弁当を取りにくるおばちゃんに
「辞めちゃったからもうお弁当あげられないやごめんね」
ていう弱きものに優しい人なところも好感度アップです。
なんと言いますか、この映画はどん底の人間が
ボクシングを始めて起死回生の一発逆転のパンチをかましてやったぜ!
とかそういうわかりやすいサクセスストーリーではないんですよね。
どちらかというと底辺ぎみな人間が底辺な生活のなかで苦しみ、痛みを感じながらちょっとしたきっかけでボクシングをはじめてみたら、なんか自分が少し立ち上がれた気がするって感じの映画なんですよ。
これは僕がそうなんですが、いい年して自分に自信を持てない大人にとっては染みる映画です。
一子に自分を重ねて観てしまいます。
冷静に考えるとボクシングを始めたからといってロッキーのようにチャンピオンを目指す訳ではなし、生活が少し変わっただけなんですが、
この少しが一子頑張れ!負けるな!一発ぶちかましてやれ!偉いぞ一子!
とエールを送りたくなります。
少しだけど、その少しの変化と努力はいかに大変か…
だらしない姿もはいずり生きる姿も立ち上がる姿も全力で安藤サクラが演じたからこそ出来る感情移入です。
もう観る前と観たあとでは安藤サクラに対する見方がすっかり変わってしまいました。
安藤サクラだせーよ!
安藤サクラすげーよ!
安藤サクラかっけーよ!
もう安藤サクラから目が離せなかったから
安藤サクラ最高!
と言わざるをえません。
そして1番の見どころはやはり最後の試合です。
一子の闘い方やそのときのセリフ、観客席の身内からの声だったりです。
凄く書きたいところなんですが、そこはさすがに自重しときますね。
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
最後に音について少しだけ
この映画の音の使い方は素晴らしいです。
一子がバイト仲間のクズ野郎からひどい目に合うときや彼氏にないがしろにされた時に流れるブルースハープの音、一子の心の痛みの音のようで切なすぎます。
もう人生とっくに詰んでるよと肩を落としたくなります。
そして奮い立った一子がボクシングに打ち込みトレーニングするシーンや試合のシーン、いわゆるボクシング映画なら気持ちが昂るような音楽を流したくなります。
チャカチャンチャカチャンチャカチャンチャカチャン×2♪(ロッキーのテーマ)
と鑑賞者の気持ちもアゲやすいですから。
でもこれは、そういうボクシング映画ではありません。
そんなわざとらしい演出はしません。
振るう拳の音、走り服が擦れる音、リアルな音を大事にしてます。
そしてラスト、溜めて溜めて溜めてきた一子の感情を爆発させるように流れるクリープハイプ!そこにタイトルがバーン!
百円の恋!!!!!
これで鳥肌立たなきゃ嘘でしょ?
僕は頭のてっぺんからつま先まで鳥肌が立ちましたよ。
と、まあいつものごとく内容のわからない安藤サクラのことばかり書いてしまいました。
しかし僕の安藤サクラに対する感情の変化は感じ取って頂けたかと思います。
先日の日本アカデミー賞主演女優賞受賞の際には大喜びしながらも
「1年遅えんだよバカ野郎!」
と、にわかファンのクセに喜び怒ったぐらいには既に安藤サクラファンです。
今後も女性としては苦手ですが女優安藤サクラのファンとして作品を追いかけていくつもりです。
最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい映画を紹介して終わります。
・もらとりあむタマ子
・愛のむきだし
・タクシードライバー