アノ映画日和

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「フィッシュマンの涙」感想 さよなら人類、僕は魚になりました。

 

僕はトンデモ映画が好きで、よくTSUTAYAでその手の映画を探します。
特に人体改造モノは大好きで、人がセイウチにされたり武器にされたりムカデにされたり、そんな悪趣味な映画をよく見てます。

大体その手の映画はホラー映画の棚に生息してるのですが、今回は韓国映画のコーナーにいるのを見つけました。

魚にされた男の話。

こりゃ、観るしかないだろ!と借りて来たところ、これがトンデモ映画どころかトンデモ過ぎる映画でした...

2015年/韓国
監督:クォン・オグァン
出演:イ・グァンス、イ・チョニ、パク・ボヨン、ほか
上映時間:92分

f:id:hagane-mk:20170527155829j:image79点

ざっくりあらすじ

記者を目指すサンウォン(イ・チョニ)は採用試験を兼ねたある取材に取り掛かる。
それはネットで炎上中の「恋人が魚男」というネタ。
なぜ彼女はそんな嘘をつくのか?を取材するつもりが
魚男は本当にいた。
製薬会社の臨床実験の副作用で魚化してしまったらしい...

この物語は魚人間と化した男の数奇な運命と取材を通して分かる真実を映像化したコメディ?...である。


魚じゃないとやってられないよ

う~~ポリポリポリ!

冒頭で語った様にこれはトンデモ過ぎる映画でして、キャッチコピーも

僕は悪魔か、英雄かそれとも、食糧?

というこれまでに観た事のない独創的な映画でした。
是非とも実際に鑑賞し確認して欲しいので内容を追うのは今回はやめます。

代わりにこの映画の何が独創的で何がトンデモ過ぎだったのかを幾つか紹介します。


トンデモポイントその1
ホラー映画じゃねぇ!

この手の映画は不運にもマッドサイエンティストに捕らわれた人が人体改造されていく様を描くホラーというのが定番です。

もういっそ殺してくれ!と懇願するような残酷性を描くのがセオリーです。

ところが今作は出会った頃には既に「魚男」

その魚男の発見から世間が大騒ぎになり、魚男及びそれに関わる人々が困惑するという何ともシュールでコミカルな映画なのです。

可哀想と思いながら所々ぶっこまれるブラックジョークや下ネタに思わず吹き出してしまいます。

そんな映画観たことあります?

トンデモポイントその2
主人公は魚男じゃねぇ!

魚男というトンデモキャラを生み出したのですから
魚男の行動を追いどう考えているのか、魚男目線で描くのが普通です。

ところが、今作の監督はその「普通」とやらが嫌なようです。

物語は魚男中心に描かれますが、主人公は彼自身ではなく彼を取材するジャーナリストです。
ジャーナリストの目線に映る世間の対応を映し、ナレーションで語ります。
被害者の主観で描かず第三者の目線で描くことで、怒りや哀れさが主張されすぎず、客観的に魚男や世間の目が映ります。

だからコメディとして成立します。

トンデモポイントその3
魚男がキモ可愛いすぎる!

CGの力を使えばもっとリアルな魚男が出来るはずです。
予算がない訳でもなさそうです。
ところが着ぐるみまる出しのビジュアル。

もうキモ可愛すぎる!

超人バロム1なら確実にウオゲルゲという名前です。
リアルな魚なら、なぜこんな姿に...と可哀想すぎてとても笑えないのですが
ウオゲルゲだから笑ってしまいます。

で、そんなビジュアルだから出オチになりそうなもんじゃないですか?

が、ならない!

なぜなら、

言動が可愛いから!

キャーキャー言われてる時は魚男イェイ!て感じで喜び
罵倒されると座り込み足をプランプランさせてイジける
魚男なんだけど人一倍(魚一倍?)人間臭い。

また彼は天然というか空気が読めない。
魚だから水をよく飲むのですが

「水を下さい」

のタイミングがいつもおかしい。

大事な話をしててお前はどう思うんだ?って時に

「....水を下さい」

今?

て、めっちゃ可愛くないですか?

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魚なんだから
うおうおうおうおうおうお
文句言わせない

トンデモポイントその4
ストーリーが凄え! 

この映画のストーリーは凄いです。
何が凄いって波が凄い!

小さな起承転結を繰り返しながら、物語全体の起承転結を創っています。

で、終始そんなバカな!って世界が続くので頭が麻痺してしまい普通なら?の先読みが通用しなくなります。

例えば製薬会社の臨床実験で魚男にされてしまったんですから
どう考えても10対0で製薬会社が悪いじゃないですか?
これがマスコミの扱いひとつで魚男の部が悪くなったりします。

んなアホな!

裁判をとおした社会問題だけでなく恋人をはじめ人間関係、親子関係、あらゆる面を同時進行で描いていきます。

グチャグチャになりそうなもんですが、実にスムーズ。
スムーズでありながら、あちこちにどこか感じさせる違和感。

シュールという言葉だけでは表せない、才能的なものを感じさせます。

トンデモポイントその5
メッセージ性が凄え!

僕はこの映画はこれを伝えたいから創りましたっていう様なあざとい映画は苦手です。
学べ!学べ!が前に出過ぎて、映画とは娯楽であることを放置したような監督には

何様?

と感じてしまいます。

今作は魚男を被害者として映したり、加害者として映したりで人の感じ方なんて
報道のされ方次第で左右されてしまうあやふやなものである事。

それを操るジャーナリズムの恐ろしさ

それ以外にも富裕層と貧困層の格差問題、学歴重視の就職難など様々な韓国が抱える社会問題に異を唱えています。

表現の仕方によっては重~い映画になります。
でもそれをコミカルに描くことで、笑いながら自然と

ちょっと待てよ?
それおかしくない?

と考えさせる。
全然押し付けがましくないんです。

説教臭いお勉強映画監督はこの作品を観て、伝え方を学んで欲しいです。


トンデモポイントその6
終着地点が凄え!

先に記述したように今作は小さな起承転結を幾つも重ねています。
だから、いつここで終わり!としてもおかしくはなりません。
というか、最初からおかしいんだけど。

楽しませたり、悲しませたり、怒らせたり...

いったいどこでどう終わらせるの?

書けません、書けませんが、

凄い!!!

ああ~そこに持って行きたかったんだと感心せざるを得ません。
ここまで感じた全ての感情と違和感をチャラにしてしまう様な終着地点。

それでいて最後までシュールは貫いてるんです!

やっぱこの映画普通じゃねぇわ!

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これでいいや
うおうおうおうお
あそぼーよ 魚ごっこ!

ずっと褒めっぱなしだけど、この映画ダメなとこないの?
て、言われたら

アリます!
メッサあります!
て言うかダメなとこだらけ!

魚男は一応世間の話題になりますが、
いやいやいや!こんなん国内で治まる程度の問題じゃないやん!
世界レベルの大問題やん!

事の始まり、ネットの書き込み主ジン(パクボヨン)も恋人か?て聞かれて

「恋人じゃないわよ!一度寝ただけ!」

て、魚男と寝るかね!?

時が経つと世間は魚男を忘れた...

いやいやいや忘れねえだろ!

関係者や世間や父親、そして製薬会社の対応全て矛盾だらけ
ダメ出ししだしたら褒めの倍は書けます。

でもこれは寓話なんです。

ダメなとこ探しよりも良いとこ探しさせられてしまうほど素敵な寓話。
魚男という不思議に素敵なワールドにハマってしまうと文句を言いたくなくなります。

そもそも、何で魚なんだろう?

ふと考えてみました。

僕が思うに水のなかでスイスイ泳ぐ魚は「自由の象徴」なんです。
がんじがらめにされた現代社会の住人(僕たち)にとってはある意味羨ましい存在です。

魚みたいに自由に生きれたらなぁ...

そんな事を考えたことのある人も少なくはないでしょう。

でも、もう一方で魚とは水の中でしか生きられない、食うか食われるかの世界で生きています。
水槽の中の魚も閉じ込められた存在です。

だから魚とは「不自由の象徴」でもあります。

魚はそんな矛盾した存在。
自由も不自由も受け止め方次第。

そう思ったら
この映画の全ての矛盾も計算されたものじゃないか?
お前と魚はどう違うんだ?

そんな風に思えてしまいます。
監督に聞いた訳じゃないので僕が深読みしすぎてる可能性大ですが...

とにかく、鑑賞者に笑いだけじゃなく様々な感情と思考を与えてくれる今作は

間違いなくトンデモ映画です!

韓国映画苦手なんだよな...
なんかバカバカしそう...

そう言わずに騙されたと思って一度手に取って見て下さい。
それでもスルー?

…逃がした魚は大きいですよ。

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追伸、今作の続編は難しいだろうけど、魚男になるまでの前日談が観たいなぁ。
でもそれを見せないからこの映画は素敵なのかもしれないなぁ。

フィッシュマンの涙 [DVD]

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最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わりたいですが、独創過ぎて類似作品が思い浮かびませんでした。
申し訳ギョざいません...