アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「ヘレディタリー/継承」感想 怖!怖!怖!映画史上最も恐ろしいは嘘じゃない!

 

ホラー映画を最も楽しむコツは怖がる事です。
当たり前ですが、ホラー映画は怖がらせる為に創られた映画だからです。
しかしホラー映画好きほど、ホラー耐性がついてしまい、怖がるというよりは楽しむという好きに変わってしまっています。

ホラー映画好きほどホラー映画に飢えている。

これは紛れもない事実
さて、僕は自他共に認める生粋のホラー映画好きなんですが、この映画…

ムチャクチャ怖かったんです。

2018年/アメリカ
監督:アリ・アスター
出演:トニコレット、ガブリエルバーン、アレックスウォルフ、ミリーシャビロ、アンダウト、ほか
上映時間:127分

f:id:hagane-mk:20181202233740j:image88点

ざっくりあらすじ

アニーの母でピーターとチャーリーの祖母、エレンが闘病の末死去。
エレンはアニーに1枚の手紙を残していた。
隠すように、そして見つけられるように、霊媒の本に挟まれて。

親愛なるアニー、黙っていてごめんなさい。
私を憎まないで、失ったものに絶望しないで。
最後に価値がわかる。

全く意味を解さない内容であったが、やがてその意味を知ることとなる。
エレンはアニー、そしてその家族に大きな"何か"を残していった。
一家を地獄に突き落とす"何か"を...


世界中が快楽と狂気の間を行ったり来たり

最後に試行錯誤の愛撫を散りばめながら 

ホラー映画を大ヒットさせる1番大きな要因は何だと思いますか?
それは

設定です。

例をあげると

・眠ると殺人鬼に殺される
・呪いのビデオを観たら1週間で死ぬ
・音を立てたら即死

など
このように設定が斬新で分かりやすいホラー映画ほどヒットしやすいです。

「何をどうしたらどうなる」

が大事なんです。

ホラー映画における設定とは、ルールです。
何をしてはいけないかを作ることです。

そしてルールが出来ればそのルールの抜け道(攻略法)が生まれます。
2つ(それ以上でもいいが)抜け道を作り、登場人物にAの抜け道を行かせる。
でも実は正解はBでした。
とするとストーリーが生まれます。
そこにキャラクターやショッキングな映像などを肉付けすると、おおよその形が出来ます。
更にCの抜け道を用意すればオチまで出来ます。

ね?そんなホラー映画何本も観たことあるでしょ?

宣伝もし易いし、お客の興味もひきやすい。
鑑賞者の口コミも広がり易いです。

ちょっとでも音を立てたら殺されちゃうんだよー
えー何それー!超怖そー!面白そー!

てなもんです。

でもこれがホラー映画好きには弊害になったりするから困ったものです。
設定を作るというのは範囲を決めるという事でもあり、先程言った攻略法が出来る事でもあります。
画角を狭めた上、攻略法まである。
簡単な話、想像の範疇でしか事が起こらないということです。
となるとホラー映画好きは鑑賞後

面白かったー!となることはあっても
怖かったー!となることは滅多にありません。

これって本当の意味でホラー映画を楽しんだって言えるのでしょうか?
僕は首を傾げる。
そこに今作「ヘレディタリー」の登場。
こいつは先にあげた方式で創られていません。
予告を見てもチラシを読んでも

死んだ婆ちゃんが残したものがヤバイ

それぐらいしか分かりません。
他の情報といえば

現代ホラーの頂点
ホラー映画の常識を覆した最高傑作
史上最も恐ろしい

何じゃそりゃ?さっぱり内容がわからん?
ヒットさせる気ないんか?
そう思いました
が、観てわかりました。

これは怖いとしか伝えようがない。
いや、伝えてはいけない映画なんです。

付け加えるならば、この映画は

ヒットさせる為に怖い映画を創るではなく
本当に怖い映画を創れば必ずヒットする

を信念に創られた映画です。
以上、終わり。

としたいところですが、それでは記事を書く意味がない。
なので、どんな映画だったのか少しだけあらすじを書きます。
書きますが、本当は何も情報を持たずに観て欲しい映画です。
出来れば、鑑賞後に読んで下さい。

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過ちを犯す男の子 涙化粧の女の子

エレンの葬儀から物語は始まります。
身内の葬儀にも関わらず娘のアニーをはじめ、孫達もあまり悲しいという感じはありません。
涙のない葬儀は淡々と終わります。

そこから、家族の日常描写。
アニーはミニチュア模型アーティストで個展の為、創作活動 。
息子のピーターは大学生でちょっといけない葉っぱをやったりしてます。
娘のチャーリーは13歳、学校に通うもののちょっと浮いた感じ。
お父さんは描写も少なく、お父さんはお父さんという認識で良さそうです。

このそれぞれの日常描写の中で異色に映るのがチャーリー
何というか独特の容姿をしており、口の中で舌をコッコッと鳴らすのが癖。
幼い子に対して言う言葉ではないですが、

ちょっと不気味ちゃん。

ちなみにチョコが大好きだけどナッツアレルギー。
そんなチャーリーが授業を受けていると、1羽のハトが窓に衝突し死にます。
授業が終わるとそのハトの死体のもとに行くチャーリー。

お墓でも作ってあげるのか?
なんや、優しい子やん...か...てあれ?

手にハサミを持っています。
それでハトの首をチョキン!

ゾッ

はい、ちょっと不気味ちゃんではなく

完全なる不気味ちゃんでした。

一方、母のアニーは家族に内緒で遺族カウンセリングに参加。
他の映画でもよく見る、同じ悩みを持った人たちが円になって座り、それぞれ悩み悲しみを吐露する例のアレです。

そこでアニーは母が死んであまり悲しくないこと。
母との関係は良好ではなかったこと。
母は生前変わった人で彼女に関わった父、兄ともに精神を病み死んでいること。
それでも母を愛していたことを話します。

ふ~む...

ここまでで映画は約20分ほど経過していましたが、まだ僕はこの映画の輪郭さえもつかんでいませんでした。
これは何の映画なんだ?
この映画の主人公はアニーなのか?チャーリーなのか?
それすら分かっていませんでした。

しかしここで物語を大きく動かす出来事が起こります。

ピーターがパーティーに行く為に母の車を借りたいとお願いします。
チャーリーも一緒に連れて行けと言う母。
仕方なく妹を連れて行くピーター。
行きたくもないパーティーに連れられるチャーリー
パーティー会場につくと
女性陣がナッツをきざんでいる姿が映ります。

ナッツ...嫌な予感しか コッ しません コッコッ

ピーターはお目当ての女性と仲良くなる為、いけない葉っぱに誘います。
そこにチャーリーは邪魔です。

「おい、お前の好きなチョコケーキがあるぞ」

とチャーリーを置き去りにするピーター
ピーターに言われたとおりチョコケーキを貰うチャーリー
待て、それナッツ入りちゃうか?

節子!それ泥団子や!食べたらあかん!

一瞬火垂るの墓がよぎり、心の中で止める僕でしたがチャーリーは食べてしまいました。
当然アレルギー反応が起こり苦しみ出します。

息が...息が出来ない....

慌ててチャーリーを車に乗せ病院に向かうピーター
限界まで車をスッ飛ばします。
車内でも依然もがき苦しむチャーリー
苦しさのあまり窓を開け身を乗り出し必死に息を吸います。
振り返り様子を伺うピーター
そして再び前を向くと道路の真ん中に動物の死骸が
慌ててハンドルを切り避ける
すると身を乗り出すチャーリーの眼前に電柱が

ゴッ

停止した車内でハンドルを握ったままのピーター
振り返り確認しようとはしません

大丈夫だ...

1人呟きますが、その言葉とは裏腹に涙が零れます。

 

静寂

 

ゆっくりと車が動きだします。
次の場面、自宅寝室で横になり目を見開くピーターの映像。
そのまま、夜が明けます。
絵は変わらず横たわるピーター
夫婦のやり取りの声だけが聞こえます。

じゃあ、行ってくるわ、すぐに帰るから
車のドアを開ける音

 

......................................。

 

NO!!!!!!!!!!!

母の慟哭が響き渡ります。
それを聞いてるだけしか出来ないピーター

ここの表現は本ッ当に秀逸。
取り返しのつかないトンデモナイことをしてしまった。
どうしたらいいのか?何をしたらいいのか?
パニックを超えて脳が思考停止してしまう。
ただ家に帰って横になりたい。
この時のピーターの心境は吉澤ひ〇みの比ではなかったでしょう。
心中お察しします。

で、その表情と母の声だけでチャーリーの無残な姿はご想像下さいって訳ね…
と思ったところに

ドンッ!

無数の虫がたかり道路に転がる生首の映像

映すんかい!

可哀想なチャーリーはハトと同じ姿に
この映画は心理描写だけでなく映像でも手加減無しです。

という感じなんですけど大丈夫ですか?
もう少しあらすじを続けますが、これ以上は知りたくないって方は読むのを止めてくださいね。

僕は弱さの真ん中じゃ 命は散らせない 

さて、チャーリーが死にました。
僕は完全にチャーリーが主役だと思っていたので困惑です。
目線を母親に移すしかありません。

その母親アニーですが、失意からかまた遺族カウンセリングに足を運びます。
そこで出会ったのが

ジョアン

彼女もまた息子と孫を無くした悲しい女性でした。
最初は関わりを避けていたアニーもいつでも話を聞くというジョアンの優しさに絆され、家に通う関係になります。
しかしある日突如元気になったジョアンにアニーは困惑。
事情を聞くとある霊媒師と出会い、孫と交信が取れるようになったと言う。

胡散臭ッ!

アニーも当然信用しませんでしたが、なかば無理やり交霊を見せられます。
目の前でチョークとボードで孫と交霊するジョアンに信じざるを得なくなったアニー。
遂には自分もチャーリーと交霊を試みます。
嫌がる夫とピーターにも協力を頼んで。

そしてチャーリーとの交霊開始。

が、様子がおかしい...
降りて来たのはチャーリーではない"何か"

その恐ろしさから夫が無理やり交霊を止めます。
しかし時既に遅し。
それからというものの家族にあり得ない不可思議な現象が続きます(どんな現象かは一応伏せておきます。ちょっとだけ言うとピーターが、あかん西川君気絶してる!になります)
この現象を止めるべくアニーは事のはじまりであるジョアンを訪ねます。
が、不在。
しかしそこにジョアンと亡き母との繋がりを示すものに気付きます。

この辺から常に靄がかかっていた物語の輪郭がハッキリしだします。

慌てて帰宅し母の遺品を探るアニー。
見つけたのは

アルバムと召喚と書かれた本

アルバムには生前より母と仲良く写るジョアンの写真。
ジョアンは母との関係を隠して巧妙にアニーに近づいてたんです。
そして召喚という本にはこう記されてました。

パイモン王
召喚すれば弱者に宿る
解くにも儀式が必要
宿主に男の体を欲する
信者に富を与える

冒頭ざっくりあらすじに書いた母エレンの手紙と繋がりが見えました。
弱者とは?
男の体とは?
もうお気づきですね?
そう、この悲劇の主人公はチャーリーでもアニーでもなくピーターだったんです。

これで物語は半分をちょっと過ぎたところ
この後、アニー、ピーター、夫に恐ろしい出来事が起こります。
あのチャーリーの惨劇でさえ生温いと感じる程の...

恐怖の波状攻撃

そして辿り着く、あまりにもおぞましい到達点。

僕は後半になるにつれあまりに怖くてもうヤメテくれと声にならない叫び声をあげました。
尻毛がざわつき、眼球が窪みました。
展開が予期出来ないという事がこんなに怖い事だとは...

大袈裟でもなんでもなく

近年、僕が最も怖かった映画です。

是非、あなたも震えて下さい。
最後まで鑑賞出来たならば、の話ですが...

※あらすじ追いはここまでとしますが、僕の感想はもうちっとだけ続きます。

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暗闇の中 すがりつくように
血がめぐるのを 確かめている

いやぁ、本ッ当に怖かったですね。
そして面白かった。
あまりに怖面白いので3回続けて観てしまいました

で、1番怖かったのが2回目の鑑賞。
それは1回目の鑑賞では気づけなかった(気付ける訳のない)仕掛けがあまりに沢山あったからです。
特に驚いたのが、ピーターとチャーリーがパーティーに向う道中あの電柱がアップで映るところ。

あそこに紋章が刻まれてました。

僕はあの不運な事故をきっかけに家族の不幸が連鎖していったと思ってたんですね。
ところがあそこにあの紋章があったって事は
あの事故は不運でもなんでもなく仕組まれた事故で

はじまりから終わりまで悪魔に導かれてたってことですよね

そこに選択の余地などあるはずもなく。

そういえばピーターの教師が授業中ヘラクレスに関してこんな話をしていました。

彼は物語で起こる予兆を全て無視している

この映画においてもそうであることを最初に知らせています。

予兆はある。
見逃せば悲劇が待っている
と。

そして続けてこうも言っていました。

彼に選択肢があるならばその悲劇の度合いは低い。
選択肢がない方が遥かに悲劇だ
そこに希望はない
選択肢のないチェスの駒のように...

ピーターたち一家に起こった悲劇がまさしくそうでした。
自分たちの意志で行動しているつもりが、悪魔と悪魔の崇拝者に操られていただけ。
しかもそれが身内によるものって

怖ッ!

こんな悲劇はありません。

これだけでなく、壁の落書きや一つ一つのセリフに意味、予兆が隠されています。
それを発見する度に新しい恐怖が沸き起こります。
僕はおそらくその半分もまだ見つけていない。

隠された恐怖がまだまだある。

それを思うとまた観るのが楽しみであり、怖かったりするのです。

Hail,Paimon
Hail,Paimon

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追伸、
この映画をさも斬新な映画のような書き方をしてしまいましたが、そうは思っていません。
むしろクラシックだと思っています。
不自然な程シンメトリーな構図が多様されたり
違う場面で違う人物が同じ配置で置かれてたり
これはシャイニングを意識して創られている。
それは誰の目にも明らかです。
テンプレの様なホラー映画が量産される中、クラシック(王道)な撮り方、創り方で新しいホラーを魅せる。

なんて素晴らしいんだろう。

ハッキリ言います。
この映画がヒットしなかったら日本の映画界は終わりだ!(あくまで個人の感想です) 


最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります
・シャイニング
・エクソシスト