アノ映画日和

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「怒り」感想 残酷すぎる3択、あなたはその答えを見届けられますか?

 

誰の愛した人が殺人犯でしょ〜か?

ある意味この映画は3択クイズだ。
最初はその正解探しをするサスペンス映画として魅せる。
しかし気がつけばその3択の人間ドラマに魅せられている。

そうなると答えを知るのが怖くなる。
答えを知りたくなくなる。
でも知らずにはいられない。

その残酷な答えを…

愛する人を信じ続ける難しさ
裏切られた時の心の痛み

見届ける覚悟を持ってこの映画は観て下さい。

 

2016/日本
監督:李相日
出演:渡辺謙、宮崎あおい、松山ケンイチ、妻夫木聡、綾野剛、広瀬すず、森山未來、ほか
上映時間:142分

f:id:hagane-mk:20170413045156j:image90点

ざっくりあらすじ

東京八王子、夫婦惨殺事件が起こる。
現場に残された「怒」という血文字などから警察は犯人を山神と断定。
しかし山神は顔を変え逃亡...完全に行方をくらました。
一方、東京、千葉、沖縄、で暮らす人々がそれぞれ素性の分からぬ男と出会い関係を深めていく。
彼らは逃亡犯と酷似していた。
自分の大事な人は山神なのか...
今作は愛と疑惑と信じる心の脆さを描いた群像劇である。

 

ちょっとぐらいの汚れものならば
残さずに全部食べてやる 
Oh darlin 君は誰 真実を握りしめる

まず安心して下さい。
犯人は◯◯です!とネタバレはしません。

まだ新作ですからね、未見者も多いでしょう。
この物語に感動した僕の感想だけを書くつもりです。
でも勢い余って書きすぎて
おいおい!予想が付いちゃったよ!てな事があれば、その時はごめんなさい。

 

冒頭でこの映画はある意味3択クイズと言いました。
なら、正解の物語以外は正解を紛らわせるフェイクの為の物語なのか?

違います。
3つの物語全てがメイン。
3つあってこそこの映画は成立しています。
どのエピソードが1番好きか?と聞かれても答えられない程どれも素晴らしい。
というか3つで1つなので切り離せません。

僕はここがまず凄いと感心しました。
3つの物語はそれぞれ独立していて一切交わりません。
出演者は同じ作品なのに、撮影現場で顔を会わす事すらなかったでしょう。

となれば、これはオムニバス映画?
と感じそうなものですが

違います。
これは紛れもなく群像劇です。
それぞれの物語の登場人物の誰かが殺人犯かもしれないという共通の疑惑があります。
その上で全く異なる物語を見せているのです。

外側をカチカチのサスペンスで固めながら、中身は濃厚な人間物語を詰め込む。
外はカリカリ中身はとろり

なんかたこ焼きかチョコレートみたいな表現になってしまいましたね。
すみません。
でも、僕は今作にあえて交わらせないという新しい群像劇の形を見たのです。

ではチラッとだけそれぞれの物語を紹介しましょう。

君が僕を疑っているのなら
この喉を切ってくれてやる
Oh darlin

まずは妻夫木聡と綾野剛主演の物語から

もうバリバリのBL!

腐女子からすれば

萌え~~

となるのは間違いないでしょう。
僕はこれは愛なの?友情なの?という精神的BL物語は美しさを感じ大好きなんですが
今作は肉体的交わりもガッツリ見せます。
美しい妻夫木と綾野剛の交わりとはいえ男の僕からすれば正直

きっつ~~

と目をそらしたくなります。
また二人の演技が凄いからガチでやってんじゃないの?と思わせるからキツイ。
でも徐々に深まる2人の愛にいつの間にか愛しくなりました。

優馬(妻夫木聡)はゲイのエリートサラリーマン。
人を信じず表面的な人付きあいしかしない男。
しかしある夜出会った素性のしれない住居も持たない直人(綾野剛)に心を許していく。

2人は同棲生活を始めるのですが、優馬がまず直人に言います。
「言っとくけど俺おまえのこと全然信じてねぇから!なんかあったらすぐ通報するからな....何か言えよ俺お前を疑ってんだぞ!」

「疑ってるんじゃなくて、信じたいんだろ...信じてくれてありがとう」

ズッキューン!

ノンケの僕もこの2人の愛の始まりに心を撃たれました。

愛を深めていく2人の日々、ある日優馬の母が亡くなります。
母の墓参りで優馬が言います

「お前も一緒の墓に入るか?」
冗談でその場は過ぎますが、直人は凄く嬉しかったのです。
ある日言います。
「一緒は無理でも隣ならいいよな...」

萌え~~

ああ、無理無理、直人可愛い。

しかし、ある日直人は行方をくらまします。
そして報道番組が伝える1年前の殺人犯の特徴と直人が酷似してることを知ります。
直人は殺人犯なのか...?

違わい!違わい!直人は犯人なんかじゃないやい!
嫌だ!嫌だ!
直人が犯人なんて絶対嫌だ!

優馬は愛するがゆえに直人を疑い、僕もついでに疑ってしまいます。

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知らぬ間に築いてた自分らしさの檻の中で
もがいているなら 誰だってそう
僕だってそうなんだ

次、広瀬すず、森山未來主演の物語。
沖縄の無人島に住み着くバックパッカー田中(森山未來)、島にやって来た高校生の男女、泉(広瀬すず)辰哉(佐久本宝)と出会い慕われる。

交流を重ねるうちに田中は2人の兄の様な存在となる。

この田中がね、いいんですよ。
バックパッカーにありがちな、俺は自由を求める旅人さ... 的ウザさもなく大きなことも言わず2人が求める言葉をそっと投げかけるような存在。

ある日、泉が悲痛な事件に巻き込まれます。
辰哉は現場を目撃しながらも怖くて何も出来なかった自分を恥じ悔みます。

相談を受けた田中は
「俺はお前の味方にだったらいつでもなるから」
とひと言、この言葉にどれだけ辰哉は救われたでしょう。
そして泉ちゃんの為に何が出来るのか2人で考えようと...

兄貴!!!

森山未來は僕より年下ですが、もう兄貴と呼ばせて頂きます。

しかし辰哉は怒りもがき奇行を振る舞う田中を目撃します。
事情を尋ねると

実は田中も泉ちゃんの事件を違う場所で目撃していたのです。
そして辰哉同様、怖くて何も出来なかった自分を恥じていたのです。
だから辰哉の気持ちがツライほどよく解る。
田中もまた勇気の出せなかった弱き男だったのです。

そんな田中は嫌いですか?

僕はより一層好きになりました。
僕もまた弱い男だから。
大事な人が傷つけられた時、果たして自分はどう行動出来るのか?
僕も田中や辰哉と同じかもしれない。
自分の心の底の弱さを田中に重ねてしまいます。

そして田中は暴れ行方をくらまします。
そして彼もまた殺人犯の特徴と重なります。

違わい!違わい!田中は犯人なんかじゃないやい!
嫌だ!嫌だ!
田中が犯人なんて絶対嫌だ!

自分と重なる田中が犯人だなんて疑いたくない、でも...疑ってしまう。

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愛はきっと奪うでも与えるでもなくて
気が付けばそこにあるもの

次、渡辺謙、宮崎あおい、松山ケンイチ主演の物語。

故郷から逃げ東京の風俗で働きボロボロになった娘愛子(宮崎あおい)を父(渡辺謙)が連れ戻すところから始まります。
故郷千葉の漁港に戻りましたが、田舎では愛子の噂は広まり皆嘲笑し見下した目で見ます。
その中、愛子が不在時にアルバイトとして来た田代(松山ケンイチ)だけは自然と愛子と接します。
彼もまたどこから来たのかわからない素性の知れない男として皆から不信がられていた男。
そんなはぐれ者同士、自然と惹かれ合い愛し合うようになります。

もうね、愛子が可愛いんですよ。
お父ちゃん、お父ちゃん、と甘える愛子が。
田代くん、田代くん、とすり寄る愛子が。

東京という街で壊され闇を見て来たのに精神年齢は幼いままの愛子。
父ですらこの娘は変わっている、こんな娘がちゃんと人から愛される訳がないと感じています。

そんな中でただひとり真っ直ぐ愛子を愛する田代。
口数の少ない彼が父に言う

「彼女といるとホッと出来るんです...」

純愛!

普段恋愛映画なんてケッと唾を吐く僕ですが、この2人は応援せざるを得ません。

何も語らない田代が愛子だけには素性を打ち明けるんです。
両親が残した借金でヤクザに追われ続けている事。
怯えながら何年も過ごしている事。

でもそんな中TVで整形外科医が明かした現在の殺人犯の姿が田代と酷似。
街の連中、父も田代を疑います。
そして、愛子も...

愛してるがゆえに疑ってしまうのです。

そして哲也は行方をくらまします...

違わい!違わい!田代は犯人なんかじゃないやい!
嫌だ!嫌だ!
田代が犯人なんて絶対嫌だ!

あの純粋な目が口が愛子に嘘を語るはずがない...だけど疑ってしまう。


愛情ってゆう形のないもの
伝えるのはいつも困難だね

だからdarlin この名もなき詩をいつまでも君に捧ぐ

この3つの物語が同時進行で描かれていきます。
物語が進むにつれ感情移入してしまい、疑わしき3人を信じたくなります。
そして信じたいのに疑ってしまいます。

優馬と同じように
辰哉と泉と同じように
愛子と同じように

でもこの3人のうち1人が殺人犯です。
しかも事情あっての殺人ではなく、ただ感情的に残忍に夫婦を殺した猟奇的殺人犯です。
よくある、実はまったく関係のない第三者が犯人でしたなんて安いオチは用意されていません。
偽りの姿を演じていた奴が1人いるのです。

ところで、なぜこの映画のタイトルは怒りなのでしょう?
この映画で描かれているのは怒りだけではありません。
嘆きでも慟哭でも哀しみでも良い気がします。
でも怒りなんです。

犯人が殺害現場に残した文字怒り。
犯人の動機である謎の怒り。
犯人に裏切られた者の怒り。
信じたい人を信じきれなかった自分に向ける怒り。

様々な怒りが描かれたこの映画のタイトルは怒り以外はあり得ません。

そしてこの物語、犯人は〇〇でした、チャンチャンでは終わりません。
それぞれの物語にちゃんとした終着点を用意しています。
それは鑑賞者を傍観させ、突き放し、そして救い、感動させます。
様々な感情が最後に一気に押し寄せます。
僕は正直鑑賞後、この感情をどう表せば良いのか分かりませんでした。
整理しきれない感情の波に心を壊されるかと思いました。

だからもう一度言います。

あなたはその答えを見届けられますか?
見届ける覚悟を持ってこの映画は観て下さい。

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追伸、ああ...今回はおふざけ無しでマジメに書こうと決めてたのに、最後の最後におふざけイラストを描いてしまった。
ごめんなさい、僕の悪い癖だ。
読者の怒りが胸に刺さる。

怒り Blu-ray 豪華版

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最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・ゆれる
・紙の月
・八日目の蝉