アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「無垢の祈り」感想 心の弱い方 閲覧禁止。あまりに救いのないその内容を書く

 

完全実写化

映画の謳い文句として安易に使われる言葉です。
でもその言葉に相応しい映画はあまりありません。

「独白するユニバーサル横メルカトル」

日本推理作家協会賞授賞
このミス2007第1位を獲得したミステリーホラー小説。
それ程優れた作品ながらそのあまりに過激で残酷な内容に実写化は無理とされていました。

が、されました。
同作収録であまりに救いのないあの物語が

「無垢の祈り」

完全実写化です。


2016/日本
監督:亀井亨
出演:福田美姫、BBゴロー、下村愛、綾乃テン、ほか
上映時間:85分

f:id:hagane-mk:20180706205352j:image87点

ざっくりあらすじ

学校でイジメられ、家庭では義父の暴力に怯える少女フミ。
彼女に安住の場所はない。
その絶望の果てでさまよう彼女は救いを探し求める
しかしその救いは、想像もし得ない形となって現れる
無垢の祈りとは...


鏡の中今もふるえてる あの日の私がいる

夢見る少女じゃいられない 

ざっくりあらすじと表題で察して頂けたと思いますがこれ

かなり胸クソ悪い物語です。
そしてグロもあります。

耐性のない方は映画を観るのは勿論のこと、この記事を読むだけでもキツイかと思われます。

閲覧注意

先に忠告をさせて頂きます。

 

物語は少女フミ(10)が1人下校するシーンから始まります。
目には眼帯、頭に包帯、背負うランドセルには

「オバケフミ」

と貼紙(イタズラ書き)
これだけでフミが日常的に虐待を受けている事、学校で虐めにあっている事が分かります。

そんなフミにいかにも危なげなオッサンが声をかけてきます。

「お前オバケって呼ばれてんのか?ガキは酷いよなぁ...おじさんもほら 耳に大きいほくろがあるだろ?耳鼻くそなんて言われてなぁ」

話を無視するフミの体をベタベタさわってきます。
無言で抗うフミですが大人の男の力には逆らいきれません。
笑みを浮かべるオッサンは段々エスカレートしていき...
場面はまた1人歩くフミに戻ります。

その手にはベッタリと変な液体がついており
フミが何をされ何をさせられたかがハッキリ分かります。

うぇ~~~

はい、開始5分でもう胸糞悪い
またフミ役の福田美姫ちゃんが非常に可愛らしい女の子なので

てめぇ、このクソJJI ブッ〇ス!

と殺意まで沸いてしまいます。

大丈夫ですか?気分が悪くなったらいつでも閉じて下さいね。

帰宅すると義父のクスオが母親を罵倒し殴りつけています。
その中フミは気配を消しインスタントラーメンを自分で作って食べます。

ツラ~~~

お腹が空いても食事の用意など誰もしてくれません
皆さん、この子の体はインスタントラーメンで出来てるんです...可哀想に

そんなフミに日常の如く暴力が後追いしてきます。
義父クスオの暴力です。
ラーメンを食べてようが、風呂に入ってようが、何をしていても頭を体を叩かれます。

世の中に意味のある暴力なんてものが存在するのか分かりませんが、クスオの振るう暴力は

完全に意味のない暴力
ただの暴力です。

それをまた

「誰もお前の事を叱ってくれないだろ?だから俺が叱ってやってんだ」

なんてムチャクチャな理屈をフミに聞かせます。
納得してない顔をするとまた殴ります。

クスオはクズ男です。
誰にでも強いのではなく、弱者に対してだけ強いクズ男。

このクズ男を演じるのが稲川淳二のモノマネ漫談でお馴染みのBBゴロー。
彼がまたどこにでもいそうな顔と雰囲気を持ってるのがリアルで胸糞。
こんな人 周りにいないから なんて切り離せない親近感があります。

フィクションをフィクションとして安心して観れない恐ろしさ

僕の父も昔ちょっとクスオなとこがありましたので、見てて少し恐怖が蘇りました。
また自分の中にもクスオがいるのではないか?
と不安になりました。
一応自分自身に問いただしてみたところ

「いないよ~~('ω')ノ」

と小腸あたりが応えてくれたので安心しておきます。

僕の事はどうでもいい、フミちゃんのこと。
こんなクズから本来守って欲しいのは母親。

しかし、この母親もど~しよ~もない!

新興宗教に陶酔したキ〇ガイBBAです。

フミがどうしてあの人は私達を叩くの?
と質問しても

「カルマよ、輪廻転生の際背負ってしまった前世のカルマのせいよ」

なんて答えます。

は?は?は?

自分も娘も救わん神さんなんて捨てちまえ!

僕はそう思いますが、フミにとってはたった1人の母親。
頼りにはならないけど大好きなのです。

可哀想すぎる!誰かフミちゃんを救ってあげて!

そんな僕の祈りは思いもよらぬ形で叶えられるのです。

この先さらにエグイあらすじを追っていきます。
気分が悪くなった方、先を知りたくない方は読み進めないで下さい。

 

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逢いたくて逢えなくて 長すぎる夜に光を探しては
独りたたずんでいる

最近フミの住むこの町では、頻繁に起こる連続殺人事件で騒がれています。
その殺人犯は死体の骨だけを持ち去り、肉片を残していくことから

骨なしチキン

と呼ばれていました。

で、これは皆さんが喜ぶか嫌がるか分かりませんが
犯人が死体を解体し、骨と肉を分けるシーンもこの映画ではちゃんと映像化しています。
淡々と肉を切り分け便器に入れるその作業映像と音

かなりエグイです。

そういうのが好きな僕としては詳細に書きたいところですが、皆さんの為に割愛しておきましょう。

さて、そのニュースに興味を持ったフミ
1人で過ごす時間は犯人が好みそうな廃墟などを巡って過ごすようになります。

そしてある廃工場で遺体の一部を見つけます。

耳です。

その耳を見つけた瞬間、棒でグチャグチャに潰します。
見覚えのある耳だったからです。
大きなほくろのある

そう、あの耳鼻くそのおっさんの耳です。

不謹慎かもしれませんが、僕はざまぁ!とガッツポーズをとりました。
フミもそう思ったのでしょう。
そして本来恐れるべき存在の殺人鬼に別の感情が芽生えます。

それからフミは殺害現場や犯人が好みそうな場所に行ってはメッセージを残すように

こんにちは。
アイタイデス。

白いチョークで書かれたメッセージに嫌な予感しかしませんが、
無垢の祈りは殺人鬼に捧げられたのです。

そうやってフミが殺人鬼にメッセージを送っている間も義父の暴力は続きます。
いや、エスカレートしていきます。
そして遂には性的な虐待まで...

あかんあかんあかん!

いくら映画とはいえ、演技とはいえ、まだ幼いフミ=福田美姫ちゃんにそんな芝居をさせたらあかん!
僕にもそれぐらいの倫理観はあります。
しかしそんな心配は監督のアイデア1発で解消されます。

フミが義父に性的虐待を受けてる際、
フミは傀儡(フミちゃん人形)と化します。
その傀儡と義父をフミが第三者の視点で覗く形で表現されます。

格闘漫画などでよく見る
「気絶した俺を俺が見てる」的な演出ですね。

上手い!
これは映画界の発明や!

実際の映像でイタズラされてるのは傀儡なのに、僕達にはそれがフミちゃんに映ります。
未見の方、ここは必見ですよ。
ちなみに傀儡を操ってるのは、監督の奥さんでプロの傀儡使い。
その表情、心理まで傀儡に宿らせています。

グロいものエグイものに耐性がついたこの僕でもこのシーンは思わず目を逸らしてしまいました。

だってクスオ=BBゴローが怖すぎるんだもの
気持ち悪すぎるんだもの

それに気づいた母親も

「一体あいつと何回やった!汚れを自分で切り落としなさい!出来ないなら私が切ってやる!」

包丁を振り回す始末。
義父も怖いが、母も怖い。
堪らずフミは逃げ出します。
そして廃工場へ

しかし、そこにも義父は追いかけて来ます。

み~つけたッ!

虐待の続きをしようとする義父。
カッターを取り出し

キリキリキリ....

ああ…怖い
フミはどうなるのか?
無垢の祈りは殺人鬼に届くのか?

続きが気になるところですが、未見者の為にあらすじを追うのはここまでとします。
長文お付き合い頂きまして有難うございました。

尚、あらすじ追いは止めますが、記事は続きます。
鑑賞者向けとなっていますので、未見者はご退場下さい。

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この世界は群れていても始まらない
Yesでいいのか?サイレントマジョリティー

鑑賞済みの皆さま、改めましてこんにちはorこんばんは。
と言ってもどれくらい鑑賞者がいるのでしょう?
というのも、今作は限られた劇場でのみ公開され、1年以上経った今でもレンタルはおろか円盤化すらされていません。

何で?

原作ファンでずっと円盤化を待ち望んでいた僕は憤りを感じていました。
しかし、実際観て そして監督の円盤化しない理由を聞いて納得しました。

そりゃ円盤化出来ねぇわ

撮影当時、福田美姫ちゃんの年齢は9歳。
現在は小学6年生だという。
この映画の内容について理解出来る年齢ではない。

その状況の美姫ちゃんを誰でも気軽に観れる状態にして好奇の目に晒す訳にはいかない。
それによって、美姫ちゃんの環境に悪影響を及ぼすことがあっては絶対ならない。
そう応える監督の考えに反対できるはずもない。

そして、なら出来るように表現を変える。
自分の表現したい事を抑えるという選択もしない。

僕は監督の選択はBESTであると断言出来るし、その判断にありがとうと言いたい。

僕は監督が持つ

「なくてもいいのにあってしまう悪しきもの」

差別や虐めや虐待、殺人等々
を見て見ぬふりするのではなく、しっかり伝え認識せねばいけない

そんな高尚な意識を持って鑑賞したのではない。
正直に言おう

黒いもの、救いのないものを観たい

その一心でこの映画に辿り着いたのです。
その想いは満たされました。
期待していた以上に。

きっと監督にもそういったものをまっすぐに撮りたい観せたいという気持ちはあったはずです。

残酷とは不謹慎と言われても人を惹きつける魅力のあるものだから。

未見で
「じゃあ、お前どこでこの映画を観たんだよ!」

という方
アップリンククラウドというインターネット劇場で700円で72時間レンタル出来ます。
興味のある方はそちらを検索してみて下さい。

時を超えて君を愛せるか
ほんとうに君を守れるか

まだお時間あります?
あれ、皆さんどうとらえました?

時間軸のこと 

この映画あちこち時間軸がねじれてますよね?
それを象徴するのがフミの眼帯。

ラスト義父の暴力によって眼帯が必要になった。
ということは眼帯がついてるのはラスト以降ってことですよね。

オープニングの下校、殺人鬼とのすれ違い(ニアミス)、2035年、がそれにあたります。

まず最初の耳鼻くそのイタズラの際、眼帯を付けていたのであれはエンディング以降か...と思ってたんですけど

そうなると廃工場で耳鼻くその耳を眼帯をつけてないフミが見つけるのは矛盾が生じています。

すれ違いシーンもまるで見知らぬ2人のように描かれています。
じゃあ殺人鬼はフミを殺さなかった?
フミの

「殺しでくだざいー!」
「ごろじでくだざいー!」

の願いはスルーされ、その後干渉すらしなかった?
う~ん、不自然だ。

2035年についてはあのシーンの意味さへ捉えかねている。

これはフミのリーディングシュタイナーが発動して世界線αとβを移行しているのか?
なんて厨二的発想まで浮かんでしまった。

これは観る人によって解釈の変わるとこだろうから、是非観た人とこの映画について語り合いたいところです。

涙の軌道は綺麗な川に変わる
そこに笹船のような祈りを浮かべればいい

さて、話を1番最初に戻しましょう。
この映画が完全実写化だという話。

「独白するユニバーサル横メルカトル」

は僕の人生の10冊に選ぶほど大好きな本です。
読んだ人は分かるでしょうが、原作と違う部分がかなり見受けられます。

・先ほどの時間軸に関する部分
・殺人鬼の描写
・終わり方(原作では殺人鬼とフミが会話をして終わる)
・ともちゃんの年齢と車椅子
・フミの性格も微妙に異なる気がする

などなど...

でもこれらの改変は原作の本質を膨らませこそすれ、別ものにするものではありません。
読中、読後に抱いたあの心臓を握りつぶされてるかのような感触は、この映画でもそのまま感じ取ることが出来ました。

いや、それ以上の強さで握りつぶしてきました。

細部を変えても本質は変えない。
僕はこれこそが完全実写化だと言いたい。

レンタル店に数多ある完全実写化と名乗った
有名俳優のコスプレ映画
ただ物語をトレースしただけの映画
予算不足を言い訳に物語をねじくりまわした映画

あれらを完全実写化と呼んでいいのだろうか?
僕は首を傾げる。
あれらは紛れもなく

不完全実写化だ

と。

そして僕の大好きな物語を完全以上の形で届けてくれた監督に
ただただ 有難うと伝えたい。
願わくば、いつの日か円盤化して下さい
そんな僕(無垢)の祈りを添えて。

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最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・冷たい熱帯魚
・ヒメアノ~ル
・凶悪