アノ映画日和

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「月に囚われた男」 感想 伝説の世代交代

 

有名監督の処女作、初期作を観るのが好きです。
費用がかかってない、テクニックがない、設定が甘いなど悪いところも目につき易いですが、
だからこそ伝わる監督の持つむき出しの色、個性、センスが見えます。
名監督になってからでは感じられない荒々しい魅力がそこにはあります。
例えばスピルバーグの「激突」、ノーランの「フォロウィング」など、それこそ後に創られる傑作の原型が素材そのままで表現されています。

今回、取り上げる月に囚われた男はダンカンジョーンズの処女作です。
ダンカンジョーンズはまだ3作しか撮ってませんが、今後ビッグネームになること間違いなしと僕は確信しています。
むき出しのダンカンジョーンズを是非、ご賞味下さい。

2009/アメリカ
監督:ダンカンジョーンズ
出演:サムロックウェル、ケヴィンスペイシー(声のみ)
上映時間:97分

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70点

ざっくりあらすじ

サムは月の裏側で1人きりでエネルギー資源採掘にあたるエンジニア。
地球との直接連絡は取れず、話し相手は人工知能コンピューターのガーティのみ。
地球には愛する妻とまだ会ったこともない3才の娘が待っている。
そんな孤独な生活もようやく3年契約の任期が終わり解放されようとしていた。

ひとりぼっちでいると ちょぴりさみしい
そんなときこう言うの 鏡を見つめて

ハッキリ言ってこの映画、地味!
なんと言ったって登場人物はほぼ1人ですから。
SF映画を観たい時って、派手でお金がかかった大作を観たいっていう部分があるのに、これではチョコレートを食べるのにビターを選ぶようなもんです。
(僕はビターチョコが苦手なのです。甘くないチョコはチョコじゃない!)
だからこの映画はSF映画を観るというより面白いサスペンスを観るという気分で臨んだ方が良いと思います。

そういう目線で観るとこの映画は実に面白い。
まず月に1人ぼっちという設定が面白い。
そしてその孤独感を表す絵が実にいい。
今のSFはゼログラヴィティに代表される様ににリアルな映像が売りになっています。
ところがこの映画は昔の古き良き時代のSF感が満載です。
人工知能コンピューターガーティなんて2001年宇宙の旅のHALを意識しまくりです。
居住基地も青と白ベースでカクカクした感じ。
これが完全な人型コンピューターとふんわり基地で生活してたなら雰囲気ぶち壊しです。
案外快適な生活じゃね?て事になってしまいますから。

さて、冒頭で月での生活やガーティとの関係性が描かれた後、サムは採掘場で事故に遭います。
目が覚めると基地のベッドに横たわっていました。
ガーティは事故に遭ったこと、記憶が数日分無くなっていること、本部からの命令でしばらくは外出禁止の安静を命じられていることを告げます。

しかし特に外傷、後遺症の見当たらないサムはガーティを騙し基地外に出てしまいます。
そしてサムは採掘場で事故にあった採掘機を見つけます。
中に乗っていたのはケガをした自分に瓜二つの男。
サムは彼を連れ帰りガーティに治療をさせます。

ここで最初に事故に遭ったサムとベッドで目を覚ましたサムは別人であることがわかります。
なるほど...クローンか、バカな僕でも流石にわかりました。
最初にイラストでネタバレしてましたね...すみません。
でも大事なのはここからなんで、それぐらいは勘弁して下さい。

尚、ここからもネタバレは続きますので未見の方はご注意下さい。

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私以外私じゃないの あたりまえだけどね、だ〜か〜ら

ややこしいので、最初に出てきて事故った方をサムA、もう1人をサムBとします。
A、B共に

お前がクローンで俺がオリジナル!

いや、俺がオリジナルでお前がクローン!

いや俺が、俺だ、俺が、俺だ、ジャンガジャンガジャンガジャンガ

アンガールズみたいにワチャワチャやっとりますが、猿でもないかぎり両方クローンじゃ!と気付きます。
本当はAもBも気付いています。

このまま生存競争をかけた争いでも起こりそうですが、何となく仲良くなります。
2人は禁止されているエリアまで足を運べば地球との通信妨害もなく家族と連絡が取れると考えます。

しかし用意されていたのは残酷な事実でした。
衛星通信にでたのは成長した娘で妻は既に死んでいる事を告げられます。
そして電話を父に繋ごうとしたところで通信を切ります。

自分たちが植え付けられた記憶は昔のもので、それから時は過ぎ妻はもういない事、娘は自分の知る姿ではない事、オリジナルのサムはとっくに帰っている事が分かります。
もう帰る場所なんてないのです。
それでも地球に帰りたい...行った事もない故郷に憧れます。
なんて残酷過ぎる記憶を植え付けられたんでしょう。

そしてサムAの体調が、事故後からいくら時間が経っても良くなるどころか、どんどん悪化していく事に疑問と恐怖を感じ始めます。
なぜ任期は3年なんだ?

コンピューターで過去の記録を見ようとしますがパスワードが分かりません。
そこで助け舟を出したのがなんとガーティ!
本来本部側につく役目のガーティがここから先サムたちを助ける役目に徹します。
この映画を観たほとんどの人が本部ムカつく、ガーティめっちゃいいやつって感想を持つでしょう。

ロックを外した記録を覗くと任期の終わったサムたちが処分されていく様子が映ります。

絶望です...絶望以外の感情がありません...うぅ。

もう僕が本部に行ってお偉いさん達を正座させて

「あかん!あんたらホンマあかんで!あの子らに謝り!ほんで奥さんと娘さんのクローン送ったり!」

と説教してやりたいです。

そしてサム達はさらにとんでもないモノを見つけます。

それは基地の地下に隠された、サム、サム、サム、サム...大量のクローンサム。

自分たちは使い捨て要員に過ぎない事を確信させられます。

そしてサムBは決意します。
よし!地球に帰ろう!

さてサム達はどのような作戦で帰ろうとするのでしょう?
無事、帰ることは出来るのでしょうか?
クローンに未来はあるのでしょうか?
ここまでネタバレしておいてそこは秘密です。

There's a starman waiting in the sky

やっぱりさすが処女作だけあって、低予算と粗が目立ちますね。
ガーティやサムたちほど感情を持った機械やクローンを作れるなら、感情のない不眠不休で働く完全なロボを作った方が企業に都合が良くない?
わざわざ記憶を植え付ける必要って何?希望を与えて労働意欲をかりたてさせる?
いやいや‥だから感情とかそもそもいるのって話しで‥とかそんな事を考えたらだめです。
元も子もありません。
アルマゲドンを観て石油採掘マンに宇宙スキル身に付けさせるよりも、宇宙飛行士に採掘スキル身に付ける方がいいだろ!というそもそも論を言うようなものなので、そんな人は科学雑誌Newtonでも読んでた方がいいです。

しかし我慢ならんのは最後のナレーションです。
あれいる?
そこは処女作だけあって説明し過ぎるとこと最後は鑑賞者にゆだねるというスキルのない甘さを感じますね。
その反省あってか2作目ミッション8ミニッツでは鑑賞者に委ねるラストにしてますね。

こんな風に処女作、初期作には粗を楽しむという楽しみ方があります。

オリックス時代のイチローを語る野球ファンのおっさんのように、あの頃のダンカンはな...と後に語る為にも是非この処女作をご鑑賞下さい。

 

最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。

・ミッション8ミニッツ
・オデッセイ
・2001年宇宙の旅 

追伸、ダンカンジョーンズはデヴィッドボウイの実子であり、
この映画の邦題は偉大なる父の出演作「地球に落ちてきた男」になぞらえて付けられたタイトルかと思われます。