アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「鑑定士と顔のない依頼人」感想 愛なんていらねえよ夏

 

エンディングのその後が気になる映画ってありますよね。

そりゃもう沢山あります。

でもこの映画は特にそうじゃないでしょうか?

僕なんかはTSUTAYAでパッケージを見る度に、あの人はあの後どうなったんだろうと心配してしまいます。
まるで彼の身内かの様に。

そんな人はきっと僕だけじゃないはず。
多くの映画好きに心配をかけ続ける老人…今回はそんな老人の映画を紹介します。

 

2013/イタリア
監督:ジュゼッペ・トルナトーレ
出演:ジェフリーラッシュ、シルヴィアフークス、ドナルドサザーランド、ジムスタージュ、ほか
上映時間:124分f:id:hagane-mk:20160811162531j:image

80点

ざっくりあらすじ

天才的鑑定眼を持ち、世界中の美術品を仕切るオークショニア、ヴァージルオールドマン(ジェフリーラッシュ)。
彼は鑑定士、オークショニアとして一流と業界では認められていたが、孤独を愛し必要以上に人と関わりを持たない変人としても認識されていた。

そんな彼だが世間が知る顔とは違うもう一つの顔があった。
それはオークションに友人でありパートナーであるビリー(ドナルドサザーランド)をサクラとして忍び込ませ狙った美術品を格安で入手するという裏の顔だ。
彼は集めた女性の肖像画を秘密部屋に収集し、それらを恋人として過ごしていた。

ある日ヴァージルのもとに女性から一本の電話が入った。
両親が死去したので遺品である美術品を競売にかけたいという依頼であった。
尋ねると美術品はあれど依頼人の姿はない。
いつも何かと理由をつけては顔を出さない。
本来こんな依頼は断るところだがヴァージルは尋ね続ける。
屋敷内で全て揃えば歴史的発見となる美術品の一部(歯車)を見つけたからだ。
こうして後にヴァージルの運命を変える事となる「顔のない依頼人」との交流が始まった...

 

あいたくて あいたくて 震える

僕は映画に出てくる偏屈な老人が好きだ(現実では後免こうむりたいが)
偏屈であればあるほど好ましい。

このヴァージルさん、孤独を愛し美人画が恋人で童貞って...美術品が対象だからちょっと高尚に感じるかもしれませんが、部屋に萌え系のポスター貼りまくって「30歳まで童貞守ったら魔法使いになれる」て言ってるオタクと変わりませんからね。
しかも60歳過ぎてるから大魔法使いダンブルドア級ですよ。
最高ですね。

それではざっくりあらすじの続きを書きますが、あらかじめお断りしておきます。
今回ネタバレ全開です!

この映画の良さは脚本の素晴らしさにありますからね。
ネタバレしなきゃ僕の文才では何も書けませんよ!(開き直り)

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ヴァージルは屋敷内で見つけたパーツを修復屋ロバートの所に持って行きます。
このロバート、ヴァージルが信頼するぐらいですから相当な修復屋ですが、若くてイケメンで女ったらしなので僕は嫌いです。
2人の見立てではこのパーツは18世紀の伝説のオートマタ(機械人形)の一部らしいです。

その後パーツを見つけるたびにヴァージルはロバートの元に向かう様になります。

パーツ集めの為に屋敷に通うヴァージルですが、さすがにこれだけ顔を出さない依頼人のことが気になります。

依頼人の名はクレア。
実は彼女、屋敷の隠し部屋にいました。
彼女は広場恐怖症で長年にわたり引きこもり生活をしているらしいです。

そして2人は扉越しに会話を交わすようになります。
それは鑑定士と依頼人との関係を超え、人対人としての会話に変わっていきます。
お互い人間嫌いということでシンパシーを感じたのでしょう。

しかし人として興味を持つと、ひと目顔を見たくなるのが心情でして
ヴァージルさんは帰ったふりをしてドアをバタンと閉め、彫刻の裏に隠れます。
美術品を不当に入手するし屋敷にあるパーツを持って帰るし、ついには覗きです。
完全に犯罪者です。
たぶんそのうちパンツも盗みます。

そんなことを考えているとクレアが出てきました。
クレアの姿を見たヴァージルさん

ズッキューーーーン♡♡♡

ついでに僕も

ズッキユーーーーン♡♡♡

おっふ...お美しい...
何で?長年引きこもりのイタリア女性ならピッツァマルゲリータ食い過ぎのデブスでしょ?
何でこんなお美しいのよ。

もうメロメロになったヴァージルはロバートのもとにパーツを持って行っても、恋話ばかりするようになります。

JJI!歳を考えろ!

恋しちゃったんだ たぶん気づいてないでしょう
星の夜願いこめて CHE.R.RY 

のぞきのヴァージルさん、結局のぞきがバレます。
しかしクレアは怒りながらもヴァージルを許しこれまで通りの関係、いやこれまで以上に親密な関係になっていきます。

もうヴァージルさんは毎日屋敷を訪ねるのが楽しくなっちゃって花束を持って行ったり、洋服をプレゼントしたりと金持ちのおっさんがキャバ嬢にハマったかのような行動。

しかしそのキャバ嬢、もといクレアはちょっとクセが強くて...すぐにヒステリックにキーキー言うは屋敷内で姿を隠すはで、いわゆるメンヘラさんです。
三次元白帯のヴァージルにはちょっと難易度が高すぎです。
クレアに翻弄されて本職のオークションはグダグダになる始末。
これだから歳くってから恋愛なんてするもんじゃないとあれほど僕は言ったのに。

ヴァージルとクレアは人対人の関係から男と女の関係まで進展します。
齢60過ぎにしてダンブルドア卒業です。
おめでとうヴァージルさん。

あとはクレアの広場恐怖症を何とかしなければですが、これが意外とあっさり解決します。
ある日、屋敷を訪ねる際ヴァージルは複数の暴漢に襲われ道に倒れこみます。
意識を失いかける前にクレアに助けを求めます。
するとクレアは恐れながらもヴァージルを助ける為、共に病院へ。
それをきっかけにクレアは外に出れる様になりました。
長年引きこもる程の重症患者がわりかしあっさり治るのね。

問題が全て解決したところでヴァージルは決意します。
次のオークションを最後にオークショニアを引退しあとはクレアと共に生きようと。
人間嫌いのヴァージルさんがこうなるとは愛の力は偉大です。

で、ディズニー映画ならここでハッピーエンド...ですがこれはディズニーではありませんしサスペンス映画です。
ここから衝撃の展開となります。
超ネタバレにいきますが大丈夫ですか?

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成り行きまかせの恋におち
時に誰かを傷つけたとしても
その度心いためる様な時代じゃねぇ

クレアを自宅に招き例の秘密部屋の美女コレクションを紹介します。
今カノに元カノを紹介するように。
そこで2人は永遠の愛を誓います。

そして最後のオークション。
無事に終えたヴァージルは来客者より喝采を受けます。
パートナーであり親友でもあるビリーも
「もう君と仕事が出来ないと思うと寂しいよ...」
との言葉。変人でもみんなから愛されてたんですね。

 

オークションを終えたヴァージルは帰宅しクレアに報告しようとしますが、クレアがいません。
どこを探してもいません。
秘密部屋か?そう思い行くと...想像もしない光景が...そこに

壁一面にあった美術品がない!!!

犯人は言うまでもないですね。
クレアはこの為にヴァージルと関係を築いていたのです。
おろろろろろーーーーん!!!

クレアに裏切られたヴァージルは失意のどん底。
見る影もないくらいしょぼくれます。
ナイスミドルがよれよれJJIとなり介護施設へ入居。
女怖い...人間嫌い...オレ森帰るとますます人間嫌いになったヴァージルであった。

 

最後にとんでもないどんでん返しがあったもんです。
ここで事件をおさらいしましょう。
とはいえ劇中でハッキリ名言しておらず僕の推測となります。
僕は監督や脚本家と友達ではないし名探偵コナンでもないので的外れでもクレームを寄したりしないで下さい。

まずこの大掛かりな詐欺、主犯は親友ビリーそこは間違いないです。
名画のコレクションを知っているのは彼だけ。
動機は昔画家を目指していた時に才能がないとヴァージルに指摘され断念することになったこと。
至福を肥やす為に自分をサクラとして利用し続けたこと。
そして名画の価値を考えた金目的。
はい、間違いなしです。
共犯は修復屋ロバート。
空になったギャラリーに修復済みのオートマタ(おそらく贋作)があったことで確定です。女たらしの彼がクレアを利用したのでしょう。
実行犯はクレア、彼女の目的は何でしょう?
広場恐怖症は嘘でした。
愛も嘘でしょう。
となると金ですね。

この3人が共謀してヴァージルを絡めとったのです。
美術品で興味を持たせ、そこからクレアに繋ぎ、関係を築かせ秘密の部屋を知り自由に出入り出来る人間にさせて実行。
ここまで大掛かりな詐欺にしたのは人間嫌いのヴァージルの鍵を開ける為でしょう。

 

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何も語らない君の瞳もいつか思い出となる
言葉にならない 悲しみのトンネルを さあくぐり抜けよう 

さて堕ちに堕ちたヴァージルですが彼は不幸でしょうか?
僕は幸せとまでは言えませんが、女性を愛し愛されることを知らなかった彼が偽りでも愛を知った。
そのまま名画とだけ暮らし終える人生よりも一瞬の輝きを手にした人生は素晴らしい.....そう思うのです。

愛してその人を得ることは最上である
愛してその人を失うことは、その次に良い

ジョジョでも引用されたこの言葉をヴァージルに贈りたいです。

 

そして気になるエンディング、かつてクレアとの話にあったパブで彼女を待つヴァージルの映像で終わります。
ここにクレアは現れたのだろうか?
劇中意味ありげに語られた

「偽物のなかにも必ず1つ本物が隠されてる」

この言葉を前向きにとらえると詐欺目的でもクレアの愛は本物となり、あのパブはそれを伝える為のもの。よってクレアは現れるですが...

おそらくクレアは現れません。
本物とはヴァージルが目覚めた人を愛するという気持ちのことです。
そして失った悲しみのことです。

 

だから僕はこれからもTSUTAYAでパッケージを見るたびにあのパブで来るはずのないクレアを待ち続ける老人を想像し心配になってしまうのです...ああ無情 

鑑定士と顔のない依頼人 スペシャル・プライス [Blu-ray]

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最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります
・マッチスティックメン
・カラスの親指
・記憶探偵と鍵のかかった少女