アノ映画日和

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「十三人の刺客」感想 稲垣吾郎が教えてくれた今作の魅力と無限の住人との違い

 

先日、三池崇史監督作「無限の住人」を観た。
木村拓哉大好き人間の僕はイラスト含めブログを書く気満々だった。
しかし残念ながら個人的に好きな作品ではなく書くのをやめた。
好評の声も聞くが、僕にとっては俗に言う

「ハズレの三池さん」だった。

なんでだろう?モヤモヤした気持ちを解消すべく

「アタリの三池さん」である「十三人の刺客」を再鑑賞。

面白い!やっぱ面白い!
でも何が違うんだろう…?

その答えは稲垣吾郎が教えてくれた。
で、その答えと今作の魅力を伝えようかと

2010年/日本
監督:三池崇史
出演:役所広司、稲垣吾郎、山田孝之、伊勢谷友介、窪田正孝、松方弘樹、ほか
上映時間:141分

f:id:hagane-mk:20171208144141j:image92点

ざっくりあらすじ

江戸時代末期、将軍の弟 明石藩主 松平斉韶まつだいらなりつぐ(稲垣吾郎)は権力を傘に殺戮、狼藉の限りを尽くしていた。
この暴君を生かしておいてはいかぬと、立ち上がる島田新左衛門(役所広司)
そしてその下に集った12人の男たち。
十三人の刺客たちは斉韶なりつぐ暗殺を決意。
参勤交代道中の斉韶を討つ、
300人の護衛を率いる斉韶に対し13人で挑む
無謀ともいえる戦いの火蓋がきって落とされた


戦闘の準備は ぬかりない退がらない

その手を離さな~~い 

 「アタリの三池さん」と「ハズレの三池さん」
その違いを説明する為にも、まず今作の魅力を伝えさせて頂きます。

物語はいたってシンプル。
ざっくりあらすじに書いてある内容が全てです。
見せ場は後半50分、13人対300人の壮絶な死闘。

どう考えても勝機のない無謀な戦です

範馬勇次郎でも仲間にしなけりゃ無理です。
でも、いきなりネタバレかましちゃいますけど

勝ちます

斉韶の首、獲っちゃいます

オチを先に言うなよ~とお叱り受けそうですね。
まぁまぁ、今作は完全懲悪の映画ですから結果は分かってるじゃないですか。
ていうか、結果よりその映像が面白い映画ですから、今回はネタバレとか気にせずどんどん読んじゃいましょう。

13人対300人でどう勝つの?
そこがこの映画の面白いところでして

参勤交代中の斉韶が通る場所を決め打ちし、罠をしかけて待ち伏せするんです。
まずは頭上から矢で次々と護衛を射っていきます。
逃げ込もうとする家屋には爆薬やら色々仕掛けてます。
ちょっとホームアローンぽいです。

これでかなりの護衛をやっつけます。
ざっと200人強ぐらいまでは減らしたでしょうか。

卑怯?
いやいやいや、これは戦略ですよ。

それにちゃんと頭上から宣戦布告してますからね。
因縁のある「みなごろし」と書かれた紙をかかげ、お命頂戴致すって。

で、最後までその戦略で倒すかと思いきや、そこは侍集団ですからちゃんと地に降りて正々堂々、刀で勝負をつけにいきます。
その降りる前に役所広司が頭上から仲間に告げる

奇襲はこれまで

斬って斬って斬りまくれ!!!

ここめっちゃアガります。
本当に斬って斬って斬りまくりですからね。

ここで13人各々のキャラが際立ちます。
じゃあ、その13人を簡単に紹介しましょうか。
その前にイラストを置いときましょう。

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空は青く澄み渡り海を目指して歩く
怖いものなんてない 僕らはもう一人じゃない

役所広司演じる島田新左衛門は刺客たちを率いるリーダーです。
彼は死に場所を探すもその機を逃し余生を生きていた武士。
そんな時に斉韶の狼藉ぶりを聞き、暗殺を嘆願される。
そこに使命、運命を感じ命を懸ける覚悟をする。
その侍スピリッツが堪らんです。

その甥っ子島田新六郎演じるは山田孝之です。
僕はやたら女子人気の高い山田孝之は嫌いなんですが今作の彼はイイ。

刀を捨てきれず彷徨う剣士
今は博徒、女遊びに興じていましたが、叔父の話に乗り参戦。
返り血を浴びる山田孝之は色気ムンムンなので、是非女子はキャーキャー言って下さい

女子受けが高いと言えば、今を時めく窪田正孝も刺客の1人です。
初の戦がこんな死に戦という若き剣士を演じます。
初見時は気にもしてませんでしたが、再鑑賞で

お前、おったんかい!

となりました。

あとは簡単に
刺客たちの参謀に松方弘樹
軍師に沢村一樹
剣豪の浪人は伊原剛志
槍の名手に古田新太
弓の名手に高岡蒼甫
怪力無双に六角精児
爆弾使いに石垣裕麿
切り込み隊長は浪岡一喜
金庫番に近藤公園

これが最初に集った12人。
そして山道で出会った野人(伊勢谷友介)も参戦し

13人の刺客となります。

この最後に参戦した野人のキャラが良くて、僕のお気に入りキャラです。
侍嫌いなのに侍の戦に参戦するほどの喧嘩好き。
しかも刀など使わず木や石で戦うという。
殴られても斬られてもものともしない不死身ぷりと、
女を喰い尽くしても喰い足らず岸部一徳をF××Kするという性豪ぷりも見物です。

こんなキャラ立ちしたメンバーがそれぞれの特技を活かし闘う姿は熱くなります。
ひとり、またひとりと倒れていく姿には涙が零れます。

ね?面白そうでしょ?

でもねこの映画の最注目箇所は先の熱き戦いでも、この13人の刺客達でもないんです。
最も注目して欲しいのは

松平斉韶こと稲垣吾郎の鬼畜っぷりです

血のにじむような遊びはこれから
少年はつぶやく 

 

斉韶の鬼畜は極めてますよ。
たまたま目についた家臣の妻を襲い
心配して探し見つけ驚愕する家臣(斎藤工)を刺し殺し

「山猿の骨は硬いの~」

と妻の目の前で切り刻みます。
妻もその後自害します。

狂人です

それだけではありません。
切腹して斉韶の狼藉を訴えた間宮の一族を捕らえ縄で縛り正座させ弓の的にします。
子どもにも躊躇なく残酷な弓を射ります。
子を目の前で殺された母親にとどめの一矢。

悪魔です

極めつけは、一揆の首領の娘を捕らえ四肢と舌を切断し慰み者にします。
そして飽きたからと山に捨てます。

鬼吾郎です

役所広司が暗殺依頼された時、この四肢を切られた女性もいましたが

「親、兄弟はどうした?」

と尋ねると、喋れないその女性は口に筆を咥え

みなごろし

と涙ながらに書くのです。
あのかかげた紙がそうです。
こんな奴、生かしておいて良い訳ないです。

で、その鬼畜っぷりは戦の最中でもいかんなく発揮されます。
次々と殺される護衛のなかを逃げながら喜々揚々と

「戦とはなかなか良いものじゃの~」

とスリルを楽しんでいます。
殺せ、こんなやつ早く殺されちまえ
そう思いますが家臣は必死で守ります。

最も忠義の熱い家臣(市村正親)が首をはねられても、悲しみもせずなんとその生首をボールのように蹴ります。

あわわわ...僕の知ってる吾郎ちゃんはそこにはいませんでした。
これを見たちびっ子はその後、吾郎ちゃんを見るたびに泣き叫ぶでしょう。

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誰かにも出来ることは
みんな承知の事実で 生きてるんだな

しかし僕はこの吾郎ちゃん、いや俳優 稲垣吾郎に拍手を贈りたい。
よくぞここまで暴君を演じ切ったと。

この映画を傑作にしたのは紛れもなく

稲垣吾郎、その人です。 

国民的アイドルが普通ここまでやるでしょうか?

確かに悪役というのは魅力的な役で、印象も残しやすい。
しかも案外演じやすい役です。
俳優なら誰でも切望する役柄。

でも今作の斉韶はいわゆる悪の美学のある悪役ではありません。
吐き気も催す鬼畜、汚れ役です。

劇中、遂に護衛は全て討ち死にし役所広司と一騎打ちとなります。

「飾り物はおとなしく飾られてればよいものを」
となじられ

「この下郎がぁ!」
と立ち向かうも、あっさり一刺。

その後、泥にまみれ無様にのたうち逃げながら

「怖い...死ぬのが怖い...」

こんな稲垣吾郎を見てファンはどう思ったでしょう。
僕は

カッコイイ

と思いました。

この映画13人対300人というのが売りですが、実は演者目線では

13人対1人です

あの豪華な刺客13人の俳優に対し、たった1人で匹敵する程の悪役を演じなければいけなかったのです。
観れば分かりますが、その大役を見事に演じ切ってます。

 

アイドルが悪役、汚れ役を演じても良い
この選択と偉業は「ヒメアノ~ル」の森田剛をはじめ、多くの後輩たちに道を創りました。

こんな素晴らしい仕事をしたのにその年の日本アカデミーは稲垣吾郎に助演男優賞を贈るどころかノミネートもしなかったんですよ。

どうなんですかぁ日本アカデミーさーん

 

ここまで書いて察しの良い読者様はもうお気づきでしょう
「アタリの三池さん」と「ハズレの三池さん」の違い

ズバリ悪役です

僕の好きな三池崇史監督作品をあげると
「オーディション」「殺し屋1」「悪の教典」「藁の楯」そして今作「十三人の刺客」です。

いずれもとんでもない悪役がいて、それを中心に物語が進行される映画です。

一方僕の思うハズレの三池さんの作品をいくつかあげると
「神様の言うとおり」「テラフォーマーズ」「無限の住人」等

いずれもヒーローを中心に物語を進行させる映画です。

三池さんはヒーローより悪役を中心に創った映画の方が確実に面白い

私見ではありますが、これが僕が稲垣吾郎から教わった答えです。

特に「十三人の刺客」と「無限の住人」は類似点が多いにもかかわらず、これだけ感想が異なるのはその1点がかなり大きいかと。

皆さんはどう思われますか?

 

ということでアタリの三池さんの代表作に今作を選び、ハズレの三池さんとの違いを語らせて頂きました。

勝手な事ばかり書いたので、ご立腹の方多いかな。
お腹立ちの方、ごめんなさい。
最後に女子受けの良い山田孝之のイラストを貼っとくので許してね。

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追伸、市村正親さんがインタビューで今作に出演される決め手となった理由を問われ
「稲垣吾郎さんは素晴らしい俳優です。この方の家臣なら演じてみたいと思いました」
と答えたそうです。
僕はこのエピソードが大好きなんです。 

最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります
・笑の大学
・マグニフィセントセブン 
・十三人の刺客(オリジナル版)