アノ映画日和

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「クリーピー 偽りの隣人」感想 不快指数90以上の快感

 

黒沢清映画が好きです。
黒沢映画には黒沢清にか出せない空気感がある

かわいているのに纏わりつく

そんな矛盾が不気味な感触。
僕はそれが堪らなく好きだ。

黒沢清が2人目の「世界のクロサワ」となる日
それはもうすぐそこまで来てる。
僕はそう確信している。


2016/日本
監督:黒沢清
出演:西島秀俊、竹内結子、香川照之、川口春奈、東出昌大、ほか
上映時間:130分

f:id:hagane-mk:20161125193013j:image81点

ざっくりあらすじ

高倉(西島秀俊)は尋問中の犯人に刺され新たな被害者を生むという失敗をおかした。

それを機に刑事を辞め犯罪心理学者に転身、新居も構え全てを新たにスタートさせようとしていた。
高倉は学生に犯罪心理学を教える一方で6年前に起きた1件の未解決事件に興味を持つ。
その事件とは娘1人を残し一家が全員失踪したというものであった。
残された娘に話を聴きながら事件の捜査を開始した高倉。

一方新居では妻(竹内結子)が隣人との付き合いに悩まされていた。
取りつく島のない謎めいた隣人西野(香川照之)
夫婦共に西野との何気ない会話に翻弄される。

この2つの謎は高倉家を深い闇へと引きずり込む事となる。

かわいた風をからませ
あなたを連れてくのさ

不快な感覚。
それは大体において湿度、粘着性が高い。
それが不安感や不衛生感を生じさせるから。

必然的にホラー映画やサスペンス映画はそれを利用したものが多くなる。
例えば血液で粘り着いた床。
雨の中正体の見えない犯人。
何度も目にした事のあるシーンでしょ。

しかし黒沢映画はホラーやサスペンスを題材としていながらかわいている。
血が流れようが、雨が降ろうが映像がかわいている。

もっと言えば無機質だ。
なのに、なのに体に纏わりつく様に離れない。

重たい物が宙に浮かぶ
硬い物が容易くゆがむ

そんな矛盾した気持ちの悪さが黒沢映画の魅力だ。

その不快さは今作でもいかんなく発揮されてます。

まず何と言っても隣人西野の存在。
低姿勢でありながら高圧的。
無反応と過剰反応。
真逆の対応が無秩序に表れる。
会話の間も妙に気持ち悪い。

こんな得体の知れない人物の演技が出来るのは香川照之くらいじゃないですかね。
監督はどういう指示をだしたんでしょう?

サイコパスでありながら一般人を装いつつそれでもサイコパスが漏れ出てる感じの人物を演じて下さい。

は?な存在。
香川照之は見事演じきってくれました。

気持ちの悪い人物は隣人西野だけではありません。

まず高倉の妻 康子、
引越しのお隣さんの挨拶に持って行くのが

手作りのチョコて!

普通、市販のお菓子とか洗剤なんじゃないの?
いきなり知らない人から手作りのチョコて...あなたも十分奇妙な隣人です。

次、西野の娘 澪、
西野をお父さんと呼び高倉家で一緒に食事を作り食べるが、突然高倉に告げる

あの人、お父さんじゃありません。
全然知らない人です。

映画のキャッチにもなったこのセリフ。
この映画の全てを伝える名セリフですね。
じゃあ何で一緒にいるの?
なぜ逃げないの?
なぜ西野の前では娘の振りを?
その従順さが気持ち悪い。

そして主役高倉。
一見普通人の様に映りますが彼もまたサイコパスです。
調べる必要のない事件に首を突っ込み周りを危険に晒しても調査を止めない。
犯罪捜査に取りつかれています。

彼は事件現場を見ただけでそこに事件性の有無を嗅ぎ取るほどの刑事の勘が鋭い男。
そんな彼が猟奇殺人犯が隣に住む家を選びますか?
知ってか知らずか彼は無意識のうちにあの家を選んだのです。
犯罪に引き寄せられて...こんな男が普通な訳がない。

とにかく登場人物の行動は何かしら矛盾を抱え、彼ら彼女らの感情が分らなくなり、その行動はなぜ何?の不快感を高めてくれます。

うう...絡みつく...かわいた空気が僕に絡みついてくる

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悩んだ末に出た答えなら
15点だとしても正しい

さて、これ程に不快感を堪能させてくれる映画ですが、世間の評判はすこぶる悪いようです。

その理由の大半は説明不足、つじつまが合わない、雑すぎるとの声。
あのですね、黒沢清の映画にそんなの求めちゃダメですよ。

テレビの凶悪事件のニュースで耳にした事ありませんか?

尚、犯人の動機、手法等、事件の真相は未だ謎のままです。

その訳の分からなさに恐怖を感じます。
黒沢映画が演出しているのは真にそれです。
僕は今作ですらちょっと説明し過ぎじゃない?と思ったくらいです。

僕もね、他の監督さんの映画には
ちゃんと説明義務果たせよオラァ!と声を荒げたくなる事は多々ありますよ。
でも黒沢映画は別。
黒沢映画がちゃんと説明しながらストーリーを進めていくなんて、なぞなぞで

逃げても逃げても追いかけて来るものか~~げだ?

と言われた様なもんです。

黒沢映画は不解が不快だから深イイんです。

 

どこが説明不足で雑なのか、ネタバレになりますがストーリーを簡単におさらいしましょうか。

 

一家失踪事件の生き残り早紀の消え去った記憶を辿りながら事件を追う高倉。
失踪前、家族は親しそうでもあり恐れてもいた謎の人物に支配されていた。
その支配者は隣人だったような...
隣人宅を捜索すると家族の死体が真空パックされて出て来た。
家族の死体と共に隣人の死体も見つかる。
誰かが隣人になりすましていたのだ。

その犯人は高倉家の隣人西野、いや西野に成りすました男。
彼は西野家に入り込み薬と話術でマインドコントロールした。
偽西野夫になり妻と娘は家族のふりを演じるようになる。
(尚、本来の夫は家族の手によって殺害させている。)
男は家族を乗っ取り財産を奪い家族を演じながら住まいを転々としていた。

男は次のターゲットを高倉家にし、妻康子を支配していく。
それに気づいた高倉と西野の一騎打ちとなる。

 

こんな感じでしたよね?
あの薬は何なの?思考能力を低下させるもの?催眠状態に入り易くさせる麻薬?
警察の捜査ずさん過ぎない?なんで娘は支配されたりされなかったりするの?前の一家失踪でなぜ1人だけ残したの?肝心の具体的な支配の仕方が薬以外説明ないの?性的描写がないけど財産狙いならそんな回りくどい事しなくても良くない?

ああ!ああ!わかるわかる!言いたいことはわかるよ!
でもそんなのが見たいなら火サスで西村京太郎SPでも観ればいいじゃん。
スッキリするよ!

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聞けよ、いやよ、聞けよ、知ってるわ

ひと晩じゅう泣いて泣いて泣いて
気がついたの

僕は物語が面白く、キャラが魅力的であるならば、ある程度強引な展開や説明不足は気にならないタイプです。
だから、今作においては皆さんの不満点には蓋が出来る。
というか、その不満点が僕にとっては面白いところだったりします。

特にどこが気に入ったかというと、家族に侵入してくるという犯罪設定。

最近芸能人の不倫のニュースが話題になったり、少し前は昼顔なんてドラマが流行しました。

これはどこの夫婦、家族の間にも溝があるから。

その溝、隙間に侵入してきたのが別の異性だから話題になるだけで、これが犯罪者なら事件になるという事です。

あなたの家族に隙間はありませんか?

絶対的な悪が日常に侵入してきた時、凡人は抵抗し得るのか。
蹂躙されるだけの存在なのか。
そしてそれは不運という言葉で表現するしかないのか、それとも隙間をつくった側にも問題があるのか

そんな恐怖を見せてくれてます。

そしてその恐怖の手段、理由、カラクリではなく、この映画が見せたかったのはその侵入者の顔です。
こんな人物があなたの傍にいたら恐くないですか?
それは十分恐怖を感じ得る存在だったし、その被害者たちは同情を超えた何かを感じました。

最後、竹内結子が見せる慟哭。
事件は終っても一生彼らを苦しめ続けるでしょう。
それを想像するとさらに恐怖を感じます。

あなたの家族、いやあなた自身にも誰かを侵入させる隙間があるかもしれませんよ...
人知れずその隙間を狙う者がもう身近にいるかもしれない。

そう考えたら恐怖が遅れてやって来ませんか?
竹内結子の慟哭が聴こえて来ませんか?

ああ...かわいた恐怖はまだ僕から離れようとしない...

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追伸、冒頭10分程に起きた事件のサイコパス。
彼も惹きつける恐怖を持っていましたよね。
8人も殺しモラルはあると言う矛盾の持主。
彼だけで1本の映画が創れそうです。
クリーピー前日談として作品を創ってくれないかなぁ。
もちろん、偽西野の犯罪も交えながら 

クリーピー 偽りの隣人[Blu-ray]

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最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・CURE
・隣人は静かに笑う
・レッド・ファミリー