アノ映画日和

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「ケンとカズ」感想 見逃し厳禁、哀しくも熱きクズどもに泣け

 

2017年も終わりに近づいたこの時期に言うのも何なんだが、

2016年の映画は熱かった

昨年に比べると今年は少し弱い気がする
いやいやこれが普通で2016年が異常だったのだ

特に邦画

社会現象にまでなった大作やアニメ映画をはじめサスペンスから泣ける映画まで全てのジャンルで傑作揃い。

ワインではないが、2016年は邦画の超当たり年だ
観る映画に悩んだらとりあえず2016年産の邦画から選ぶことをお勧めする

などと、偉そうに語る資格は僕にはない

つい最近までこの傑作を2016年に置き忘れていたのだから…


2016年/日本
監督:小路紘史
出演:カトウシンスケ、毎熊克哉、飯島珠奈、藤原季節
上映時間:96分

f:id:hagane-mk:20171126211030j:image85点

ざっくりあらすじ

ケンとカズは覚醒剤の闇取引で金を稼いでいた。
2人には金が必要だった。
しかしカズはより多くの金を求めだし暴走していく。
遂には敵対グループと手を組み覚醒剤をさばき始める。
仕方なく手を貸すケンだったが、それはすぐに元締めのヤクザに知れる事となる。

闇はもうすぐ

あなたは底辺に生きる男たちの転落、怒り、悲しみを見届ける事となる


終わらない歌を歌おう

クソッタレの世界のため

音楽でも映画でも初期にしか出せない「熱量」というものがある。
今作は小路紘史監督のデビュー作。

そこにはとてつもない熱が込められていた。

その熱は多くの映画好きに火を着け、話題を呼び劇場ではロングランヒット。
遂には第28回東京国際映画祭、日本スプラッシュ部門作品賞を受賞。

そんな作品を僕はスルーしていた。
なぜなら「ケンとカズ」てタイトルが

クソダセえと思ってたから

トミーとマツかよ!
トムとジェリーかよ!

平成も30年になろうかという今、何?その昭和感マンキンのタイトル?
パスパス

同様の思いでスルーしてる方、悪い事言わないから観た方が良い

この映画のタイトルは「ケンとカズ」しかない

僕は今では、そう思ってるのだから...(反省)

さて、今ではすっかりケンとカズ親善大使を勝手に名乗る僕が今作がいかに素晴らしいか、極力ネタバレなしで語ろう。

まず題材が素晴らしい

ざっくりあらすじでわかるように、いわゆるノワール映画です。
簡単に言えば犯罪映画。

僕はその手の映画が好きで、特に韓国ノワールが大好き。

救いがない?同情もしにくい?

そういうモヤモヤしたやつ。
任侠映画やマフィア映画みたいに自らの決断で闇に堕ちる、闇で散らす的なある意味カッコいいやつじゃない。

クズが選択肢のないクズの世界で生き、必死にもがくも結局ダメで

じゃあ、どうしたら良かったんだよ!

という底辺のあがきと苦しみと絶望、

最高ですね

邦画でその手の傑作ってありそうで、あまり無いんだよね

え?暗そう?観る気なくした?
ちょちょ待って、ちゃんと魅力書くから

終わらな歌を歌おう
全てのクズ共のために

この映画の魅力を語るのに「ケン」と「カズ」この2人について書かない訳にいかないですね。

この2人は覚醒剤を売って生活してる正真正銘のクズです。
でもね、そんなクズでもクズなりにちゃんとバックボーンがあるんですよ。

「ケン」は何て言うか基本良いヤツ。

眉毛ボーンだけど

学校の不良でもいたじゃないですか?
不良グループの1人なんだけど年がら年中キレてるような危ないヤツじゃなくて、普段は落ち着いてて、優しくて友達になれそうなヤツ。
怒らせたら怖いけど、仲間想いで頼れるヤツ。
それがケンです。

眉毛ボーンだけど

そんなケンは同棲してる彼女がいて、その彼女に子どもが出来ます。
彼女には覚醒剤売りだなんてことは当然秘密。
これを機に覚醒剤の世界なんか足を洗って、普通に生きたい、這い上がりたいと願っています。
でもそれには金がいるし、辞めます、はいどうぞみたいな簡単な世界じゃないし、
自分がこの世界に誘ったカズの存在も気にかかります。

いつ、どのタイミングで、どうやって辞めよう...それをずっと考えてるのが

眉毛のケンです。

そんなヤツ嫌いになれます?

僕はなれません

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一方相方の「カズ」は絶対友達になれないタイプ
年がら年中キレてて、彼がいると常に空気はピリつき暴力が自然と生まれます。

この物語におけるトラブルは全てカズの暴走によるものです。
カズさえいなければ、ケンは彼女と子供と幸せに...くっ

でもそんなカズにはカズの事情があります。
カズは幼い頃より母に酷いDVを受け育てられました。
殴っては泣き、殴っては泣きの酷い親。

その母も今は痴呆ボケており、父が死んだことも理解出来ず
毎日カズに電話して来ては父の事を尋ねます。

「だから何回言わせんだよ!親父は死んだんだよ!」

劇中、何度も電話が鳴ってはこの悲しい怒りがぶつけられます。

もうこんな母親、殺してしまいたい

でもそんな母でもカズにとってはただ1人の母親。

なんとか金を作り、母を施設に入れたい。
そんなカズを嫌いになれますか?

僕はなれます

だって怖いもん...


終わらない歌を歌おう

僕や君や彼等のため

その2人の関係性なのですが、なんとも微妙です。
友情と呼ぶにはあまりにいがみ合っています。
表面上は

こいつ嫌いだわ、鬱陶しい

がありありと出ています。

では欠かせない仕事のパートナーか?と言えば
カズは仕事でトラブルばっか犯しているし巻き込むし、何よりケンはこの仕事を辞めたいのです。

それでもトラブルの後、イライラしているカズを後ろからポーンと蹴って一緒にパチンコに出かけるケン。

なんかほっとけない弟を見るような目。
こいつを誘ったのは俺なんだよな...という負い目。

そして何より共に闇の底辺で生きて来た同種という仲間の目。

2人は閉じ込められた闇の中で生きて来ました。
ケンはそこで小さな扉を見つけました。
その扉を開けてこんな世界おさらばしたいです。
でも出来ないのです

救いのない世界で生き続けるこの男を俺も見捨てるのか?

その想いがこの映画の中心にずっとある、僕にはそう映りました。
きっと2人にとって

カズはケンでケンはカズ

だからカズはケンを見てイライラするし、辞めるなんて許せない
だからケンはカズを見捨てたくても見捨てられない

僕は暴力や覚醒剤なんて無縁の世界で生きて来たから、ここで描かれている事がリアルかどうかなんて分かりません。
でもこの2人のことは理解出来るし、こういう人達もいるんだろうな...なんて思ってしまうのです。

でも本音を言えば

ケン、そんなDQN野郎捨てて幸せになれよ

て言いたい。

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終わらない歌を歌おう
明日には笑えるように

ここまで読んで、この映画が単純な物語であることは察して貰えたでしょう。
ケンとカズというクズがいて、覚醒剤の仕事でトラブってヤバい事になる。
それを2人の人間描写で膨らませている。
それだけです。

そんな単純な映画にこれ程惹きつけられるのはなぜでしょう?

それはこの映画には監督の本気が詰まっているからです。

正直この映画は無骨で粗々しく、稚拙な部分も目立ちます。

例えばカメラワークなど、それはちょっとダサくない?
という箇所が何か所かあります。

例えば、演出。
2人が敵対グループの覚醒剤をさばいているのがバレて、元締めのヤクザの親分がケンの元に訪ねて来ます。
親分は全く関係のない昔話や笑い話をし続け、ケンと鑑賞者を不安を誘う。

これノワール映画ではベタ中のベタな演出です。

でもそんなの全然オッケー!

僕が感じたのは一笑する気持ちではなく

わかる、わかる、いいよねこういうシーン
監督さんも好きだったんだな、やりたかったんだなていう気持ちです。

何て言うか初打席だから、見よう見まねで思いっきり振りにいってる。
そのフォームは正しくはないかもしれないけど

今、俺に出せる全部をこの作品にぶち込んでやる!

その本気が鑑賞者の芯をくってます。
少なくとも僕は芯をくらいまくってぶっ飛びました。

その本気は演者にも伝わり、ケン役の方もカズ役の方もなりきっています。
だから2人にリアリティを感じ、感情移入出来るし
2人の暴力にも迫力がある。

失礼な話、無名の監督が、無名の役者を使い、本気でぶつかったから

生まれた傑作

てやつです。

ビギナーズラック?

違う、違う

最初に言った初期にしか出せない熱量ってやつです

同じ脚本を大御所監督が有名役者を使って大金をつぎ込んでも

「ケンとカズ」は創れなかった

そう、断言しておきます。

 

ということで今回、想いのまま僕の熱い感情をぶちまけました
ウザかった?ごめん、ごめん。

でもこの映画はウザくないしアツいだけじゃないです。
犯罪やバイオレンスだけが売りじゃない。
ラストも含め、冷たく悲しい話しなんですよ。

変な例えで申し訳ないですが、この映画を鑑賞し終わった時

熱湯と冷水を同時にぶっ掛けられた

僕はそんな気になりました。
間違いなくアツいものを感じながら、恐ろしく冷えた哀しい感情が入り混じる。

監督はどちらを感じさせたかったんだろう?
たぶん...どっちもかな...

僕はこれから何度も観てその両方の温度を確かめるつもりです。

決して冷めることも、ぬるくなることもないこの映画を

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追伸、僕は役者でも何でもないですが、この映画出演したいわぁ~てめっちゃ思いました。
監督、「ケンとカズとアノマリ」で続編創りません? 

最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・キッズ・リターン
・息もできない
・嘆きのピエタ