アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「冷たい熱帯魚」感想とイラスト あなたの隣の殺人鬼

 

園子温という人間が嫌いだ。
彼の言動にはいちいちイラッとさせられる。

園子温の創る映画は大好きだ。
面白いからだ。
面白いだけでなく、園子温にしか撮れない映画を創るからだ。

人間園子温は嫌いでも監督園子温は好き。

人間性と創られる作品は別問題、混同してはいけない。
創る人間が変人だろうがが、キ〇ガイだろうが作品には全く関係ない。

そう思いませんか?
※園子温はキ〇ガイと言ってる訳ではありません...たぶん。

2011年/日本 
監督:園子温
出演:吹越満、でんでん、黒沢あすか、神楽坂恵、梶原ひかり、渡辺哲、ほか
上映時間:146分
※R-18

f:id:hagane-mk:20170516173957p:image87点

ざっくりあらすじ

社本信行(吹越満)職業、熱帯魚店経営。
死別した前妻との間に生まれた娘と再婚した現在の妻との3人暮らし。
家庭不和を抱えながらも慎ましく生活をしていた。
しかし、同業者村田(でんでん)との出会いが全てを壊す。
戻ることの出来ない闇へ引きずり込まれる。
社本が闇の向こうに見た景色とは...


サヨナラ...愛の幻想

TABoo...TABoo...TABoo... 

この映画を観るのにはかなり躊躇がありました。
怖いからグロいからではありません。

そういう映画は大好きです。

なら何故躊躇があったかと言うと
「実際にあった事件にインスパイアされて創った」と監督が公言していたから。

実際にあった残酷な犯罪を映画にするってどうなんだろう?

当然そこには被害者がいて、被害者の遺族、関係者がいる。
その人たち全員に許可など取れる訳がない。
僕が被害者関係者なら、映画化などされたら不快になるだろう。

犯人への怒り、被害者及び遺族の方々への同情…それぐらいの倫理観は僕でも持ち合わせているのだ。

しかしその一方で事件そのもの、犯人の動機や背景に興味がないと言えば嘘になる。
興味本位という闇が僕の中に確実に存在する。

園子温はそれを見透かした様に胸ぐらを掴み言ってくる。

偽善者ぶるなよ、お前は本当はこういうのが観たいんだろ?
タブー?なんだそれ?面白いのか?

その通りだから言い返せない。

そして園子温はそれをオブラートに包んで届けるなんて事はしない。
事件の剥き出しの狂気と闇をぶちかましてくる。

自分が面白いと思ったらなり振り構わず撮る!
そして観せる!

こんな人間が良い人間な訳がない。
やはり園子温は嫌いだ。

しかし結局は闇の誘惑に負け観る。
案の定、何の配慮もない残酷で観るに耐えないストーリーと映像のオンパレード。

だけど悔しいかなムチャクチャ面白い。

見始めたら you can't stop !
やめられないとまらない

未見者で聖人を装いたいなら観ない方が良い。

人の不幸は甘美だから、園子温はそこを的確に突いてくるから!


みろよ青い空 白い雲

そのうちなんとかな~るだ~ろ~う 

この物語の主人公、社本信行とはどういう男か?
簡単に言えば「ことなかれ主義」「無思考人間」「臆病者」

素行の悪い不良娘、美津子。
家事を怠る後妻、妙子。
2人の仲は最悪。
家庭崩壊の道まっしぐら。

当然、社本はそれに対し不満を持っています。
しかし、注意はおろかその現実を見ようともしません。
自分が行動することで、これ以上悪い方へ行くのを恐れている。
相手の事を気遣っているという体裁を自分の中に作り逃げている。

それを象徴する細かなシーンがあるので紹介します。

妙子に用事のある社本が妻を探します。
店先でタバコを吸う妙子を見つけますが、社本は妙子がいない方を向き
「妙子~!」
と呼び、妙子がタバコを消す時間を与えてから、妙子を今見つけた顔をして話しかけます。
「お前!タバコなんか吸いやがって!」

と注意することをしません。
許してる訳ではなく、それで揉めるのが嫌なのです。
問題ない夫婦を装いたいのです。

食事が全て冷凍食品だろうが、娘が食事中に携帯で話し不良仲間と出かけても
見て見ぬふり

そのうち自然となんとかなるかもしれない。
自体を好転させる「何か」が起こるかもしれない。

そんな微かな望みを持って、必死に現状維持に努めます。

あまり好感の持てるタイプではありませんね。
でも、社本は極端に描かれているだけで特別な人間ではありません。

僕は彼に似た自分を感じました。

あなたはどうですか?

会社や人間関係に不満を持ちつつも
してる事はTwitterで

「この会社マジブラック!」
「あいつマジ死んでくれ!」

と呟いてるだけではないですか?

もしそうなら、あなたも立派な社本です。

話を物語に戻しましょう。
ついに社本が待っていた「何か」はやって来ます。
それは社本が望む「何か」ではなく「連続殺人鬼村田との出会い」という
最悪の「何か」ですが...

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パニック パニック パニック みんなが慌ててる
オーラは凄いぞ天才的だぞ オ オ オ オ

その出会いは1本の電話から始まります。
スーパーより美津子が万引きしたとの連絡が。
慌てて妙子と2人でスーパーに向かいます。

激昂する店長と態度の悪い美津子。
もう警察に連絡する!

と、その時現れたのが村田。
激昂する店長をなだめ、おとがめなしで許して貰えることに。

同業者であることから、店に3人を招き親しく接します。
社交性の高い村田に妙子も美津子もすっかりなびいてしまいます。
美津子は村田の店で働くことになり、
妙子は村田さんのもうけ話にひと口のってよと社本に懇願します。

仕方なしに話だけでも聞くか...と向かうと待っていたのは
村田とその妻愛子、顧問弁護士の筒井、

後に分る殺人集団です。

彼らは吉田という男に1匹1,000万の熱帯魚を養殖販売して儲けようという話を持ち掛けその支度金を受け取るところでした。

どう考えても胡散臭い話に疑いを持つ吉田を安心させる為に、熱帯魚のプロ社本は呼ばれたという訳です。

すっかり信用してしまった吉田は金を渡します。
そして差し出された栄養ドリンクを飲むと、吉田は苦しみ出します。

「大丈夫ですか!吉田さん!吉田さん!」
慌てふためく社本に村田は言います。

「いいよ、もうほっとけ。それより俺の話しを聞け」

最初の殺人はこうして行われました。

さて、この村田幸雄とはどういう男か?
簡単に言えば「ことおこせ主義」「金の亡者」「超自己中人間」

自分以外の人間は駒としか思っていません。
金の為なら平気で人も殺します。
自分の邪魔になれば仲間も殺します。

それでいて社交的で狡猾で人心掌握に長けてます。

目の前の人間を支配する為に与えるべきは、金か性か恐怖か瞬時に理解し行動に移します。

社本とは全く逆の人間ですね。

つまり僕達とは真逆の人間です

え?自分はどちらかというと、村田タイプ?
あまり、あなたとはお近づきになりたくないですね...

さて、話を物語に戻しましょう。
村田はこれから吉田の遺体を処分するから手伝えと社本に強要。
恐怖で支配された社本は従います。

この映画がR‐18指定になっているのはこの物語のストーリー性にも問題がありますが、更に問題なのは

映像です。

これから行われる解体作業。
村田曰く

「ボデーを透明にするんだよ、ボデーを!」

この映像が、

まぁ、エグい!

もうグッチャグッチャのドッロドロ

しかもそれを喜々として行う村田と愛子

大島優子が観たなら

「私はこの映画が嫌いです!」

と退席するだけでは済まないでしょう。

吐き気を抑えられない社本を2人は笑います。
そして手伝わせます。

観るに堪えない映像ではありますが、

こういう映像から逃げたらこの映画はウケない!
こういう映像を求める闇を誰もが本当は持ち合わせてるんだ!

人の興味本位という闇を園子温はえぐって来ます。
気が付けばこの映画から目を離せずにいる自分に気づきます。

そう、

僕らは社本で園子温が村田なのです。

※園子温は殺人鬼と言ってる訳ではありません...たぶん。

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Lonely nightss
凍える夜に叫び続ける 狂いだした
Blue-Boy

ここからR‐18な物語と殺人と性の映像が次々と展開されます。
グロ耐性のある方はもちろん、気分を害されてる人も決して目を離せないでしょう。

それだけ今作の闇は魅惑的だからです。

それにしてもなぜ、社本は警察に通報するなり逃げるなりしないの?
そう苛立つ方もいるかもしれません。

しかし、長年培われてきた
「ことなかれ主義」「無思考人間」「臆病者」

はそれを拒否します。
自分が行動することで
妙子が美津子が自分がこれ以上最悪な事になったらを思うと

それなら現状維持を選んでしまうのです。
考える事から逃げます。

そんな社本があるきっかけで覚醒します。
いや、ブチ壊れます。

凶行に凶行を重ね、妻を犯し、美津子を殴り、美津子の不良仲間をボコります。
そんな社本を見て

カッコ良い~!

と思う僕は不謹慎でしょうか?

血まみれになった社本に

萌え~~

となる僕はゲスでしょうか?

社本に自分を重ね解放された様な気分になる僕は...

そんな社本が最後に美津子に残す言葉

「人生ってのはな、〇〇〇だよ!」

という言葉の重さ。
この言葉の為に、これまでの苛立ちと恐怖と狂気があった気さえします。

結局、最初から最後まで園子温の思惑通りです。
そして何度も観てしまうのです。

園子温の掌で遊ばれてるなぁ...

やっぱり僕は園子温が嫌いです。

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追伸、今作で僕は大事なことを1つ学びました。
え?人生ってのはってやつ?
違いますよ

巨乳にはとりあえずビンタ!

ということです。 

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最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・愛のむきだし
・凶悪
・ドリーム・ホーム(香港映画)