アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「羊の木」感想 人間を殺す人、殺さない人、それぞれの事情

 

知ってますか?
1年間に最も多く人間を殺す生物が何か?

1番は蚊です。
マラリアなどの病原体を運び感染させて殺します。

では2番目に多く殺す生物は?

はい、人間です。

その数、約58万人/年
これは戦争や死刑などを抜いた数字です。
もちろん発覚していない殺人も含まれません。

なぜこれ程、人間は人間を殺すのでしょう?
そこには人類の全体数を調整する「種」としての意識が働いてる気さえします。

生まれ持って殺す人間と殺さない人間は決まっているのでしょうか?

僕は人を殺せないし、おそらくこれを読んでるあなたも殺せない。
では殺す人間と殺さない人間の、違いの境界線はどこにあるのか
そもそもそんな境界線はあるのか

今回はそんな映画のお話です。

2018年/日本
監督:吉田大八
出演:錦戸亮、木村文乃、北村一輝、松田龍平、優香、市川実日子、ほか
上映時間:126分

f:id:hagane-mk:20180814020105j:image80点

ざっくりあらすじ

さびれた港町・魚深うおぶか、ここに素性の知れない6人の男女が移住して来た。

彼らは全員、元殺人犯。

受刑者にかかる税金の節税の為、問題のないと思われる者はどんどん仮釈放させる
過疎化の進む町に人材を投入する
この2つの問題を同時に解決する為の国家プロジェクト

新仮釈放制度

彼らは刑期短縮の代わりに10年間、この魚深で過ごさなければならない。

その6人を市役所職員である月末つきすえ(錦戸亮)は出迎える。
町の人々と元殺人犯。
彼らは同じ柵に入れても良い羊なのだろうか...

殺人鬼も聖者も凡人も
共存してくしか ないんですね 

殺人をテーマとした映画は大抵
加害者か被害者、あるいは担当検事、弁護士が主人公で描かれます。

この映画の面白いところはそのどれでもなく
親族でも友人でもない、一市役所の職員が主人公ということ。

これほど客観的に殺人者を見た主人公は珍しいです

殺人の加害者のことも被害者のことも動機も知る必要のない主人公。
僕達の目線とかなり近いです。

この主人公が感じる感覚が先に書いた答えに導いてくれる気がします。

では、その主人公から紹介しましょう。

魚深市の若き市役所職員 月末一
演じるのは関ジャニ∞の錦戸亮

錦戸亮と言えば しゃくれなのに超イケメンという
B'zの稲葉さん、かぐや姫の帝と並ぶ しゃっく界の憧れ。
同じ関西人でしゃっくである僕としては当然応援したい芸能人。

しかし、こんなに華のある人気芸能人にこの役は務まるだろうか?

そんなイケメン、田舎の市役所におるか~?

いささか不安を持ちながらの鑑賞でしたが、彼で何の問題もなかった。
彼で良かった。
特に秀でた演技をしていた訳ではなかったが、そこが良かった。
出迎えた元殺人犯たちに

「ここはいい所ですよ、人もいいし魚も美味い」

と微笑み話しかける姿は
人の好さそうな田舎の市役所職員そのものでした。
制作者、鑑賞者が求める月末一という人物像がそこにありました。

主役だからって目立てばいいってもんじゃない。
やるじゃないか しゃっく王子。

「いい役者ですよ、笑顔もいいしベースも上手い」

はい、では続いてその月末がお迎えする6人の元殺人犯たちを紹介します。

・福元宏喜
元職場の理髪店で同僚の首を剃刀で斬り殺害。
魚深でも理髪店(月末の通う)で勤める事となる。

この元殺人犯を演じるのは水澤紳吾。
彼は良いですよね~
僕の大好きな映画「怒り」でも、登場時間こそ短いものの
こ...こいつヤバイ...
と感じさせる異質感を醸し出していました。

今作でもそのヤバさを存分に発揮しています

素性を隠して就職した新しい職場で、いつ身元がバレるかとビクビク。
月末の顔剃りしてる間も店長の発言にビクビク。
剃刀を喉にあてたままブルブル。

簡単に魚深に馴染める羊ではありません。
当然ドラマが起こります。

・栗本清美
アルチューDV夫を一升瓶で撲殺。
魚深では清掃員として勤める。

演じるのはシン・ゴジラでブレイク後あっちこっちにひっぱりだこの
市川実日子(お姉ちゃんはどこに行った?)

訳アリの幸薄い女性を演じさせたら今彼女の右に出る者はいません。
今回もドンピシャでそういう役。
当然この羊も問題アリです。

・大野克美
スカーフェイス(傷づら)のわかりやす~い元ヤクザ。
対抗組織の親分をワイヤーで絞殺。
魚深ではクリーニング店に勤めます。

演じるのは田中泯。
この年配の方、存じ上げないんですが...

本職の方?

ヤクザにしか見えないし。
こんな方がいたら客足も遠のくし、堅気の仕事が務まる訳ないし、店長とも上手くやってける訳ないし。
問題アリアリですし。

 

ふぅ...元殺人犯ばっか紹介してたら疲れてきました。
読む人も大変だろうから、あとの3人を紹介する前にイラストを入れていったん休憩

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 ・杉山勝志
元暴行殺人犯、現役DQN。
池袋ゴールデンチャイナ事件というなんか凄そうな事件の犯人らしいです。
魚深では一応漁師として勤めます

が、こいつが凄えやっかい。

10年間も魚深で大人しくする気なんてさらさら無く
何かやってやろうと他の元殺人犯たちに絡んでいきます。

本来、彼等がなるべく接触しないように互いの素性は隠されているのですが、

人殺しは人殺しを見抜く目がある

らしく、彼ら同士はすぐ気づき合うのです。

演じるのは北村一輝。
彼は色んなタイプの役を演じますが、個人的にはこういう悪い役をやってる彼が好きです。
表情、言葉使い、雰囲気、歩く姿まで、言葉は悪いですが

THE クソ野郎
悪一文字

です。

・宮越一郎
過剰防衛で人を殺めてしまい服役。
魚深では運送業につきます。

6人の中では比較的普通人。
月末が幼馴染と組むバンドの見学に来たことから、ギターをはじめ
月末とは友人に、バンドメンバーのギターリスト石田文(木村文乃)とは恋仲になります。
ちなみに月末は文のことが好きらしく、微妙な感じになります。

演じるのは松田龍平。
何を考えてるかよく分からん掴みどころのない役をやらせたら絶品。
もう親父さんの七光りなど必要としない一流の役者さんです。
龍平と翔太なら

僕は断然、龍平派!

知らんがな...ですね、はい、最後の1人にいきましょう。

・太田理江子
彼女は

エロい!
とにかくエロい!

夫の趣味に付き合い、性交中に相手の首を絞めてそのまま殺しちゃったって
犯罪歴までエロい。

最初に月末と会ったときも、何か臭いってことで売店で服を買って着替えるんだけど

ピチTにブラ浮き

エロ過ぎ!月末君も困るよね...

で、一応介護施設に介護士として勤務するんだけど、そこに月末の父親がお世話になってまして、すぐ恋仲になります。
歯磨きを手伝ってあげたり、口元についたご飯粒をヒョイパクしたり...明らかに顔が男を誘ってました
次のシーンではチュッチュッしてました。

超恋愛体質と言いますか、年中発情期と言いますか

ま、とにかくエロいんです。

彼女を演じるのが優香。
どしたん?
僕の知ってるQさまの優香はどこ行ったん?
グラドル全盛時より色っぽくて実にけしからんです
38にしてあの魅力、けしからんです。
こんなけしからん介護士がいる魚深...是非行ってみたいです。

と、こんな6人の元殺人犯たちが魚深の町にやって来ました。
彼らと月末、そして魚深の人々の関わりが物語を構成します。
どう考えてもヤバイ展開にしかなりそうにないですね。

では、ここから先その関わりをちょっとだけ書いていきます。
書いていきますが、徐々にネタバレが濃くなっていきます。

ネタバレ回避は自己責任でお願いします
 

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あの偉い発明家も 凶悪な犯罪者も
みんな昔子供だってね 

田舎町に6人の元殺人犯。
てっきり僕は血みどろのサイコパス劇場なのかな?と思ってました。
例えば「ヒメアノ~ル」みたいな。

こりゃヤバイことになるぞ~

変な期待を胸に鑑賞してたんですが、どうも様子が違う。
月末を介して、それぞれの元殺人犯の事が分っていきます。

まず理髪店勤務の福元。
身バレに怯え勤務してましたが、月末の顔剃りの時店長が

「月末さん、福元...刑務所で理容師免許取ってるよね?」

と、ついに見抜いてしまいます。

バレた~~

ガクッと膝をつく福元。
かばうように月末が

「すみません、本来最初に伝えるべきでしたが、そうすると雇って貰えないかもしれない、福元さんの居場所がなくなってしまうかもしれないと思いまして...」

平謝り。
すると店長は

「違うんだよ月末さん、俺もムショ帰りなんだよ。だからムショ帰りのツラさは誰よりも分かってるつもりだよ。さっき月末さんが言ってたように《居場所》があるって事が大事なんだ。俺は福元がここに来てくれて良かったと思ってるよ。有難うな、来てくれて…」

て、なんじゃこりゃ?

か、感動やん⁉

てっきりバレた福元が剃刀片手に大暴れするって思ってたのに。

不意打ちの感動

これには僕も探偵ナイトスクープの西田局長ばりに泣いてしまいました。

続いては元ヤクザの大野さん
クリーニング店に勤めたはいいが、仕事は要領を得ずおばさん店長に嫌味を言われる毎日。
客足もどんどん減って行く...

「やっぱりお客さん減ってるんですかね...?」

店長に聞く大野

そりゃそうやん、そんな怖い顔の店員いる店 誰でも避けるわ
そう僕が思ってると店長が

「そうよ、あんたのせいよ。あんたのせいだけど、あんたは全然悪くないじゃん。何よ、みんな顔を見ただけでヤクザって決めつけてさ」

「いや...人が肌で感じたことは大体正しいです。実は私、昔ある組織に所属してまして、人を殺めて服役しておりました...」

「じゃあ、嘘をついてたってこと?...だったら辞めて貰うしかないわね」

「お世話になりました、月末さんに言って代わりの人を頼んでみます...」

店を出て、歩く大野さん
そこに

「待って!やっぱ取り消す!」

後を追いかけて来た店長

「私が肌で感じたことはどうなんの?私、あんたのこと全然悪い人だなんて感じてないんだけど!」

店に戻る店長と大野

ジ~~~ン

また感動やん⁉何なん?泣くやん?
あのおばちゃんが良い人の役やるの初めて見たわ!

こんな感じで元殺人犯たちの告白やエピソードが次々と僕の心を揺らします。

で、観ながらぼんやり考えていました。

僕は人を殺す人間なんてどこかオカシイ人間だとどこかで決めつけてたな。
「殺す人間」と「殺さない人間」は「白」と「黒」のようにハッキリ別れてて
バツッと境目があるものだと。

僕は殺さない人間だから、何があっても誰も殺さない

そう確信めいたモノを持っていたけど、例えば環境が、例えば人との出会いが最悪な方、最悪な方に流れ、それが重なった時、それでも僕は人を殺さないと断言できるだろうか?
何かの拍子という事もあり得る。

「白」と「黒」の間はグラデーションになってて、その間を僕は(人は)行き来してるんじゃないだろうか?

たまたま今まで白よりの方にいただけで...

とすると黒に流れてしまった人もまた、
出会いや環境が白の方に引き戻す事だってあり得るんじゃないか?

境目なんてないのかもしれない...

柄にもなく人間を殺す人、殺さない人について考えてみたりしてしまいました。

そうか、これは犯罪映画じゃなくてヒューマン映画だったのか

めでたしめでたし

チャッチャッチャンッ

とナイトスクープのように締めくくろうとしました

が、そうはいきませんでした。

感動させながらもずっと付きまとってた不穏な空気、人物が

ぬるり

と動き出します。
先に僕が書いた綺麗ごとを全部ちゃぶ台返しする様に
サイコパスが暴走モードに突入します。

誰がどの様に暴走するのか、未見の皆さんは是非推測しながら鑑賞して下さい。

これは感動系ヒューマン映画ではなくて、犯罪系サスペンス映画ですのでご注意を

と、一旦ここで締めますが、僕の感想は続きます。
完全ネタバレになりますので、鑑賞済みの方だけお進み下さい。

きばってこーぜ イェイ イェイ イェイ
振り切ってこーぜ ほら  ブンブン

いやぁ、スマソスマソ。
何が人間を殺す人と殺さない人はうんたらかんたら
白と黒のグラデーションの間をうんたらかんたら
境目などないのかもしれない...

じゃ、アホか!恥ずいわ!

宮越(松田龍平)の暴走殺人ショー見たら

あるわい!境目!

確かに福元とか大野とか他の元殺人犯は白黒のグラデーション内にいますけど

宮越はその先!
白黒の先!

完全レッドゾーン!

あんなん、環境とか出会いとか全く関係ない

ナチュラルボーンキラー

あ、殺そってなったら即殺
どこで殺る気スイッチ入ったか全然わからん。

どんな凶悪犯罪者でも大概金目当てとか痴情のもつれとか目的や原因があるし、殺すにあたって色々その後とか考えて殺します。
宮越はまず殺す、からのさてどうしよう。

躊躇も計画も計算もまるでナシ

劇中の宮越の殺人を追うと、学生時代に殺した少年の父親が復讐に来たから殺す。
それを目撃した杉山が挑発してきたから殺す。
その目撃者になるから近くにいた漁師も殺す。
どうせ捕まったら死刑だから月末も殺す→失敗。

怖え~~~

特に杉山&漁師殺人のシーンがバリ怖かった。
車でドン!追加でドン!念押しにタイヤでグチャ。
しかも全部無表情。

怖え~~~

あれは劇中で描かれてない殺人(余罪)がかなりありますよ。
それも相当数。

ひょえ~~~

あれと比べたら杉山(北村一輝)なんか全然グラデーション範囲内。
レッドゾーンの宮越を挑発したんだから、そら殺されますわ。
グラフにしたらこんな感じ。

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これで宮越のヤバさがよりご理解頂けたかと思います。

もはや人間なのかそうでない生き物なのか分からない存在。
こんな人外、身近には絶対存在して欲しくないです。

が、映画としては彼がいて本当に良かった。

彼がいなかったら、ただのヒューマン映画
それこそ犯罪者の更生プログラムのVTRみたいに説教臭くて退屈だったでしょう。

宮越がいるから緊張感があり、ショッキングな見せ場があり、

エンターテイメントとして成立してました。

そういう意味では宮越、松田龍平こそが

真の主人公

でしたね。
ファンの方には申し訳ないけど、月末(錦戸亮)は

完全に引き立て役

でした。
全然おいしくない役どころ。

でもだからこそ僕は錦戸亮を評価します。
客寄せパンダじゃなくて、物語全体を考えて月末をどう演じるべきか
映画のことを考えた演技でした。

ありきたりなことを言いますが

人生、普通が1番

そして

普通が1番難しい

それを体現した錦戸亮に拍手すると共に感謝します

この映画は普通である事とそうでない事、そうありたいと願う事をそれが幸せである事を深く考えさせる映画だったから。

最後の月末の表情、セリフがそれを教えてくれた気がします。
とても素晴らしいエンディングです。

未見なのにここまで読み進めてしまった人は是非ご自身の目でご確認下さい。
決してテレビの人気者でごまかした映画ではありませんので。

 

f:id:hagane-mk:20180816152940j:image追伸、今回の記事はまとまりがない上、ところどころ臭くてサブい表現があったことをお詫びします。僕も映画ブロガーとして異質な存在なのです...のろろ~ 

最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・怒り
・冷たい熱帯魚
・凶悪