アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「異端の鳥」感想 どこまで地獄、どこまでも地獄 

 

戦争
長尺
モノクロ

僕が苦手とする映画の三大要素です。
なのに今回紹介するこの映画
戦時中の1人の少年を追いかけた映画で、モノクロ、3時間……
ぐへぇ〜観る気しねえ〜

更には鑑賞者の声を聴くと
可哀想、酷すぎる、残酷、地獄、胸糞、しまいにはトラウマだ!なんて。

ちょっと待て、そんな言葉を聞いたら……

そそられるじゃあないか!

普通なら更に観る気を無くしそうな内容に悪趣味な僕はヨダレを垂らす。
で、先の三大要素をねじ伏せて鑑賞です。
そしたら、これが…もう…

2020年/チェコ・ウクライナ
監督:ヴァーツラフ・マルホウル
出演:ペトル・コトラール、ステラン・スカルスガルド、ハーヴェイ・カイテル、ジュリアン・サンズ、ほか
上映時間:169分

f:id:hagane-mk:20210307234151j:image90点

ざっくりあらすじ

第二次世界大戦時、東欧の国、どこかの村。
ホロコーストから逃れて疎開してきた少年がいた。
オリーブ色の肌、黒い髪に黒い瞳
彼はこの地に似つかわしくない容姿をしていた。
その違いは壮絶な差別と迫害を呼んだ。
目を覆うような暴力の数々。
それでも彼は生にしがみつく

例え異端の鳥だとしてしも

これから始まる世界は不安がいっぱい
大人は危険な動物だし 場合によっては人も殺すぜ 

なが〜〜い映画は苦手。

僕だけじゃなくそんな方は多いと思います。
なのでまずその事について
長尺映画の何が苦手かと言うと

退屈な時間が多くてダレる!…ですよね?

起承転結の「起」と「承」がやたら長く
なんやねん!いつ面白なんねん!と
ご安心下さい。
この映画は連なる9つの章から出来ており
各章それぞれが 起承転結 起承転結 時には起承転転結
と目まぐるしく物語が動き退屈する暇などありません。
事実 僕は鑑賞しながらこれなら何時間、何十章でも観ていられる
もっとくれ!もっと!となりました。

そして凄いのがただ短編を無秩序に並べているのではなく、
各章のまとまりが映画全体の起承転結を形成しています。

ね?これなら長くても楽しめそうだなって思いません?
内容による?そりゃそうですね。
では、それぞれどういった内容になっているのか 各章さわりだけ紹介していきます。


prologue -プロローグ-

タッタッタッタッ

少年がペットのフェレットを抱えて逃げる。
その後ろから 少年を追う悪ガキ達。
少年からペットを奪うと目の前で焼き殺してしまいます。

はい、無理!

知ってます。人間がいくら死んでも大丈夫だけど可愛いもふもふが死ぬのは無理!て方が多いこと。
そんなジョジョ第1巻のダニーが焼け死ぬとこでアウトな方は早期脱落をお勧めします。

この映画における死に優劣はなく、ただ1つの死。
老いも若きも性別も、そして人か動物かすら関係なくバンバン死が描かれます。
実に端的に。
それが戦時中における死で もはや1体2体という数字でしか無いのかもしれません。
もちろんもふもふも例外ではありません。


chapter1:Marta

田舎にポツンとある一軒家
老婆と2人暮らしの少年は、いつか両親が迎えに来てくれる事を信じています。
が、ある日 
暗闇の中、老婆が椅子に座ったまま動きません。

お、お婆ちゃん…?
矢吹ジョーの如く真っ白な灰になっています。

ヽ(ヽ゚ロ゚)ヒイィィィ! し、死んでるー

驚いた拍子に少年はランタンを落としてしまいます。
瞬く間に燃え広がる炎
少年は逃げ出せましたが、家は丸焼け。ついでに老婆も火葬、本当の灰にしてしまいました。
住む場所を失くした少年は親を探し 宛のない旅に出る事になるのです。

さあ出発だ 今 火が昇る♪

chapter2:Olga

歩きに歩き辿り着いた村で、少年は村人に奇異の目で見られます。
この地の人々に少年は異物の様に映るのです。
そして、あっという間に囲まれ袋叩き

最初の村でこれって、どんな旅の始まりやねん。

村人達は少年を呪術師オルガに突き出し処分を委ねます。
オルガは言います。

「この子は悪魔じゃ、吸血鬼じゃ…私が買い取ろう」 

クソBBA、少年を所有物にしてどうするつもりや!
少年を我が物にしたのをいい事に、
寝床を与え、食事を与え、仕事を与え…て、あれ?まともじゃね?
そうなんです、オルガは口は悪いけど良心的な人でした。
ラピュタのドーラ的な人でした。
自分の助手にする事で村人の迫害から少年を守っていたんです。

少年が流行病で死にかけた時も、このままでは危ないと
村はずれに連れて行き首から下を土に埋めます。
そうそう、ポスターなどでこの映画の広告に使われていた例のシーン。
あれがこの映画の地獄の象徴、ピークみたいに思ってたでしょ?
No No No あれは治療。
群がるカラスもオルガが追っ払ったしね。

お陰で少年は回復。
このままこの地で腰を据えるのか?
そう思った矢先、少年を良く思わない村人に川に落とされてしまいました。

あ〜〜れ〜〜

流されて次の村に進む

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子供らを被害者に 加害者にもせずに
この街で暮らすため まず何をすべきだろう

chapter3:Miller

つぎに少年が身を寄せるのは粉屋のミレルの家。
ここにはミレル、その妻ともう1人若い使用人が同居しています。

ま、ここでは大した問題も事件もないです。
強いて問題をあげるならミレルが異常な嫉妬心の持主である事ぐらい
奥さんと使用人の浮気を疑って

グリン

使用人の両目玉をスプーンでくり抜きます。

怖ッ!!!!

D4C (いともたやすく行われるえげつない行為)

少年もここはヤバいと身支度整え夜中にgood-byです。
使用人が気になる?
大丈夫 大丈夫 道中倒れている使用人を見つけて、拾っておいた目玉を渡してたから多分大丈夫。

chapter4:Lekh and Ludmila

この章は切ないんだよな〜

レッフという鳥売りの男と出会い、共に生活をする様になります。
レッフは無骨ですが、確かな優しさを感じさせる男です。
彼にはルドミラという恋人がいます。
これが訳の分からん女性でして
レッフがピーッと口笛を吹くと森からふら~と現れます。
半裸で。
で、たぶんちょっとおつむのアレがアレなんです。
だからレッフ以外にも誰とでも寝ます。

ある日 村の青年たちを挑発し ことを致すんですが
これに怒ったのが青年たちの母親達。

よくもうちの息子をたぶらかしてくれたわねー!

と集団リンチ。

やめてくれー

レッフは止めようとしますが、怒母達に押さえつけられて助ける事が出来ません。

これでもくらいな!

ルドミラのデリケートボックスに瓶をぶち込みます。
レッフの目の前でルドミラは絶命。
おお...D4C...再び

失意のレッフは後を追う様に首を吊ります。
まだ息のあるレッフを助けようと少年は懸命に努力するのですが
大人は大きいし重いし無理があるじゃないですか?
で、この時少年がとった行動がもう…ね、健気で(涙)

この章 切ねぇわ~~でも好きだわ~

chapter5:Hans

ここはこの映画が戦争映画である事を改めて認識させられる章。

通りすがりの村でコサック(ウクライナ、ロシアに存在した軍)に目を付けられた少年
少年は捉われてそのままドイツ軍の駐屯所に連れて行かれます。
少年を見るなりナチス将校は

「志願者はいないか?」※ユダヤのガキを処刑したい奴はいないか?の意

ここで手をあげたのが初老の兵士ハンス。
無言で線路を歩く2人。
時折振り返る少年、ハンスの手には銃。
やがて線路の終点に辿り着く。
顎で先の森の方へ行けと合図するハンス。

行ったら撃つやん、絶対撃つやん!

動かない少年にもう一度合図。
覚悟を決め走る少年。

バーーーン!!!!

後ろで銃声が鳴る。
振り返ると銃を空に構えるハンス。
もう一度、空に銃を撃つ。

ええ~~逃す為の志願やったん?
顔面怖いけどハンスめっちゃいい人やん。

時を同じくして、多くのユダヤ人が列車で移送されていた。
板壁をぶち破り脱出を試み飛び降りるユダヤ人達。

ダダダダダダダダダダダダダダッ

ナチスのマシンガンは容赦なくユダヤ人達を撃ち抜いていく。
それでも万が一の可能性に賭け、次々と飛び降りる。
飛び降りた数だけ死体が転がる。
あまりにも軽く散る多くの命。

無数の死体が転がる草原、そこに少年は通りすがった。
おもむろに死体のそばにある荷物を物色する。
少し歩くと同世代の子供がギリギリの命で這いずっていた。
少年はその子のブーツを脱がせて履いた。
死体に靴は要らない。

う~~ん、胸が痛むけど少年を責める気持ちにはなれない。
悲しいけどこれ戦争なのよね。

胸が痛い 胸が痛い
せつな過ぎて うずくまる

chapter6:Priest and Garbos

再びナチスに捕らえられた少年でしたが、司祭に助けられ侍者として仕える事になります。
ですが、街の人々はやはり差別の目を向けます。
更に司祭は病に侵されており、長くは滞在出来そうもありませんでした。

そこで手を挙げたのが信者のガルボス。
「私が少年を預かりましょう」

うへ~見るからに胡散臭い~
絶対アカン奴の顔してる~

いかん、いかんですよ。
見た目で勝手に決めつけたら。
オルガやハンスも第一印象最悪やったけど良い人やったもん。

ガルボスは少年を家に招くと食事を与え、寝床も与え
ほらほら
そうホッとしていたら寝室の扉が開きます。
そこにはズボンを履くガルボスと裸でシーツにくるまりシクシク泣く少年。

やりやがった!
ガルボス ドリラー決めやがった!

見たまんまのド変態かよ!
しかも超サディスティック野郎で、少年を蹴るは叩くは吊るすは
最悪です。
司祭にチクったら殺すと脅しもかましてきます。
チクらなくてもいつかは殺す癖に。
危機を感じた少年はガルボスに罠をしかけます。
山で偶然見つけたネズミ穴を利用するのです。
まんまと罠にかかったガルボスはネズミ穴に落ちネズミの餌食に

ネズミ穴って何?
うん、それは書くとちょっと、うん、アレかな?
ネズミ嫌いのドラえもんとウチのおかんが見たら
地球破壊爆弾 出すやつです。お察し下さい。

その後少年は司祭の元に戻りましたが、既に司祭は亡くなっており
そこにもう居場所はありませんでした。
そしてこの地を後にするのでした。

chapter7:Labina

ラビーナの章。
ここは良いですね〜特に好きな章です。

美人ではないけどブスでもない、デブではないけど痩せてもいない
アリよりのナシと、ナシよりのアリの丁度あいだ。
それがラビーナ。

少年は彼女の家に転がり込む事になりますが、
実はラビーナここだけの話

ちょーどすけべ(小声)
しかも全方位型のどすけべ(小声)

当然ショタもイケマス
少年とラビーナはすぐにいい関係に。
少年は恋を知り、2人の恋は順調に進むかの様に思えました。

しかし性欲オバケが少年に満足するはずもありません
段々と邪険に扱う様になります。

そして遂に驚愕の行動

少年がラビーナを探し小屋を覗くと
山羊とF◯CKする振りを見せつけながら

ニヤリ

「貴方となら山羊さんとの方がマシよ」と言わんばかりの表情
酷い!まさか山羊にNTRかまされるとは!

なぜ!何で!う〜〜ううう あんまりだ…
あァァんまりだァァアア

プライドを傷つけられた少年はその場を走り去ります
叫んでも暴れても怒りの炎は鎮まりません。

そしてその夜、少年は山羊の首を切り落とし
その首を眠るラビーナの寝室に投げ込みここを離れるのでした。

おいおい少年、気持ちは分かるけど
それイタリアンマフィアのやり口やで……

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鳥よ 鳥よ 鳥たちよ
鳥よ 鳥よ 鳥の詩

chapter8:Mitka
chapter9:Nicodem and Joska

続けて紹介したいところですが
この2つの章は起承転結の「転」と「結」にあたります。
流石にネタバレが過ぎるので伏せておきます。
伏せておきます

が、

素晴らしい!

ここからの展開が素晴らし過ぎる!

「転」
これまで少年は精神的にも肉体的にも散々汚されてきました。
しかし汚れは時間が消しさってくれる可能性があります。
ラスト2章、少年は「汚れ」ではなく「穢れ」ます。
この穢れは生涯消える事はないでしょう。

うう…胸が痛む。

そしてラストの章

「結」

ああ…こう締めるのか
何とも言い表せない感情に唸りました。

少年は色んなものを奪われ失いました。
家、家族、恋人、自尊心、羞恥心、倫理観...
人間としての尊厳すら失くしてしまったかもしれません。

でもたった1つ
少年にはたった1つだけ残されていたんです。

それが明らかになったところで幕が閉じます。

いったい何だと思います?

それはどうぞご自身の目でご確認下さい。
きっとあなたも僕と同じように唸り、その素晴らしさに感動するはずです。

ちなみに映画祭ではエンディング後10分間スタンディングオベーションが鳴りやまなかったそうですよ。

という事で傑作戦争映画「異端の鳥」を紹介させて頂きました。
途中、不適切な表現が多々ありました事をお詫び申し上げますm(_ _)m

僕と同様に先の三大要素で興味を持てなかった方々
内容を知って少しは興味を持って頂けたでしょうか?

僕の拙い語彙力でどれだけ伝わったか分かりませんが
苦手三大要素とか言って見逃すには勿体なすぎる傑作です。

僕と同じ様な理由で避けていた人に

あれ?思ってたんとちょっと違う…観てみようかな
と、その背中をほんの少しでも押せたなら嬉しいなぁ。

ではでは
長文お付き合い有難うございました。
映画ブログ界の異端の鳥 アノ映画日和でした。 

f:id:hagane-mk:20220730060920j:image追伸、ちょっと内容を書き過ぎじゃない?とお怒りの方もいるかもですが、
ご安心下さい。ここで書いた何倍ものエピソードがあります。その分残酷もあるってことですけど。

最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい映画を紹介して終わります。
・ブリキの太鼓
・炎628
・悪童日記