羊たちの沈黙のハンニバルレクター、ダークナイトのジョーカー 、レオンのスタンスフィールド、ブラックレインの松田優作、等々
映画には時に主役より魅力的に映り、強く印象を残す悪役が生まれます。
主役を喰う
俗にいうダークヒーローってやつです
邦画の場合、印象を強く残してるという事に変わりはないのですが
ダークヒーローっていうのとはまた違います。
冷たい熱帯魚のでんでんさん、黒い家の大竹しのぶ、リングの貞子...
うん、ダークは間違いなくダークなんだけどヒーローは絶対付かないな。
で、今作の森田剛なんですが...
2016/日本
監督:吉田恵輔
出演:森田剛、濱田岳、ムロツヨシ、 佐津川愛美、ほか
上映時間:99分
87点
ざっくりあらすじ
清掃のアルバイトをする岡田(濱田岳)は先輩の安藤(ムロツヨシ)に相談を持ち掛けられる。
安藤はカフェで働くユカ(佐津川愛美)を運命の人と確信し想いを寄せているという。
安藤の頼みでユカに接触する岡田。
ところがユカは岡田を好きになり、岡田もユカを想うようになる。
こうして2人の甘くも秘密の恋が始まった。
時を同じくして森田(森田剛)というユカのストーカーがいた。
男は岡田の高校生時代の同級生でもあった。
ユカから想われる岡田とユカをつけ狙う森田は必然か偶然か再会する事となる。
しかしこの2人の再会と交わりは身の毛もよだつ狂気と恐怖へと繋がっていった...
YEAH そうなんだ
きっとここから愛なんだ
はじめることが愛なんだ
僕は映画も好きですが漫画も同じくらい好きで、特に古谷実作品は大好きです。
当然このヒメアノ~ルも大好きです。
この漫画が実写化されるという話を聞いた時、正直不安しかありませんでした。
え?俳優はこれでいいの?ストーリーはどうなってんの?
そんな不安を抱えながらいざ鑑賞
これがもう本っ当に素晴らしい!
吉田恵輔監督ありがとう!
もう感謝の気持ちでいっぱいです。
はっきり言ってキャラのビジュアルは全く違うし、ストーリーも大幅に変えている。
しかし始まりから終わりまで常に胸がザワつくこの感じ、それは原作を読んでいた時と全く同じ感触でした。
本質を捉えるってこういう事を言うんでしょうね。
物語は岡田のちょっと気持ちの悪い先輩安藤の恋話から始まります。
本来めんどくせっ知らんがなで放っておきたい案件ですが、人の良い岡田君は何やかんやで協力するはめに。
その想い人、ユカちゃんを2人で見に行くと、これが若くて超可愛い
無理無理無理!安藤さん絶対無理!
はい、終了!としたいところですが安藤さんはしつこい男です。
諦めません。
そこで店にいる森田を見つけます。
安藤さん曰くいつも店に来てユカちゃんを見てる。
あいつ絶対ストーカーだぜ、ユカちゃんを守る為にも岡田君協力しろ!
とグイグイ先輩圧力をかけてきます。
その森田は高校の同級生ってことで声をかけちゃったし、安藤さんからはユカちゃんの事を調べろとお願いされるしで、仕方なくユカちゃんに接触をはかります。
そこからストーカーの相談を受けたり、一緒に食事会をしたりする内に親密になっていき、ある夜の公園で岡田はユカから告白されます。
私の好きな人って岡田さん...です。
え?俺?え?同じ名前の?
いえ、この岡田さんです...
岡田を指さすユカ
それをこっそり影から覗いていた安藤
アアアアーーー!!!
奇声を上げる安藤
キャァーーーーー!!!
それを聞いて悲鳴を上げるユカ
アアアアーーー!!!
キャァーーー!!!
アアアアーーー!!!
キャァーーー!!!
何...これ...?
途方に暮れる岡田
このシーンおもろすぎでしょ!
ひっくり返って笑ったし何回もリーピートしちゃったし好きすぎてイラストにしたのがこちらです。
お前も十分ストーカーだよ!
おいおい、てか今回あらすじ追い過ぎじゃね?
そうお思いでしょ?
いやこのコメディタッチの日常パートがこの映画においていかに重要かお伝えしたかったのでここまでは書きました。
この先はあらすじを追いませんがネタバレはぶっこむので未見者はここでお帰り下さい
キミニ告ぐ、ユメワオワラナイ
殺しの Fanfare
さて、恋人同士になった岡田とユカ、当然夜の方も共にする事になります。
それを部屋の外から声を聞き睨みつける
Go Morita
そこにタイトルがジワ~~
HIMEANOLE
はい、ここからが本当のヒメアノ~ルですよと言わんばかりの演出。
冒頭から森田の凶行を見せていたらここまで恐い作品には感じなかったでしょう。
岡田、安藤、ユカの日常の恋物語を見せながら、森田を少しずつ映していきグラデーションのようにその濃度を濃くしていきます。
この演出によって狂気とは日常と地続きであり、日常のすぐそばで狂気は控えている…そう感じさせます。
被害者と加害者は共に特別な存在ではなく、誰の日常にでも不意に訪れる。
これこそが古谷実が描き吉田恵輔が受け止めたこの作品の本質だと確信してます。
ここからは森田のサイコパスな殺人、殺人、そして殺人を次から次へと見せつけられます。
その狂気は自分より弱いものを殺す、不意をついて殺すなど卑怯な殺害ばかりです。
でもこの森田、生まれついての殺人鬼ナチュラルボーンキラーではないのです。
高校時代酷い虐めにあっており、卒業をまじかに控えたある日その虐めの加害者を捉え殺人へと及びます。
その時、殺人という行為が森田の中で性癖へと転化させてしまったのです。
その虐めの描写もあります。
この酷い虐めの毎日が森田を壊していったんだ...殺人鬼である森田に同情してしまう程酷い虐め。
はたして自分がこんな虐めを受けていたら壊れずにいられるだろうか?
壊れた後の自分がどうなるかなんてわかるだろうか?
もしかして自分も森田だったかもしれない...そう思わせる恐さがあります。
冒頭申し上げた事はここに繋がります。
ダークヒーローと邦画の鬼畜たちは違います。
違いますが共通しているのはどちらも自分とはかけ離れた存在であるという事。
自分達とは違う世界の住人なのです。
ハンニバルレクターは恐い存在ですが、その凍りつく様な恐さは絶対的に自分とは違う者と認識させ、それゆえ不謹慎かもしれないがカッコ良いとさえ思えてしまいます。
でも森田は...これ以上語る必要はないですよね。
いつまでどこまでなんて 正常か異常かなんて
考える暇も無い程 歩くのは大変だ、あ、あ、あ
しかし、この監督の描写は異常ですね。
それいる?その描写本当に必要か?というシーンを放り込むことで妙なリアリティを生ませます。
例えば女性を襲い下着を脱がせたら、あ!…とか
車を盗む為に男を殺して道に捨て、車を走り出させた時にその死体の頭をゴリッと踏むとか
神は細部に宿ると言いますが悪魔も細部に宿るんですね。
そんな監督のもとで撮影されてるのだから役者も自然と気合いが入ります。
演技のイロハも知らない僕ですが、この映画に出て来る役者陣の演技が凄いことは分かります。
濱田岳、ムロツヨシ、森田剛、もう演技合戦の様です。
それに負けじと佐津川愛美も体をはった演技を見せます。
でもやはりこの映画を観た人は森田剛が凄かった!
と言うでしょう。
悪役とは案外印象の残しやすく演じやすいキャラクターです。
その優位性を考慮した上でもやはり森田剛が凄かった!
最初の鑑賞では殺害シーンの演技に目が行きます。
でも2度目3度目になると殺人以外のシーンの方が恐くなりました。
例えば最初の森田と岡田の接触シーン
森田くんてここの店よく来るの?
え?来ないよ
いや、あそこに座ってるうちの先輩がよく森田君を見かけるって...
いや誰かと間違えてんじゃない?
何でもない会話ですが平然と嘘をつきそれがバレてもそんなことは言ってないとまた嘘をつく。
こんな嘘をあらゆる場面で見せます。
聞かれたくない質問に対して、はぐらかす訳でもない、嘘に躊躇がない、整合性がない
ちょっとアレがアレな人ってこういうところありますよね。
また別のシーン、家宅侵入した森田がカレーを食べています。
そこに家主が帰って来ます。
家主は殺された奥さんを見つけ逃げますが、森田は冷静に包丁で刺し殺します。
そして何事もなかったようにまたカレーを食べ始めます。
どちらのシーンも森田の人間性いや狂人性が表れていて恐いです。
自然な不自然と言えばいいのでしょうか?
森田剛は動の狂気だけでなく静の狂気も演じていたから凄いのです。
そんな危険な描写が多い映画ですから今作は当然R-15制限となっています。
でもこの映画で殺人鬼森田をカッコいいと憧れたり模倣する人はいないでしょう。
そういう意味での危険性はありません。
だって森田は卑怯で汚らしく悲しい人間です。
壊れたのに壊れたまま生きなければいけない憐れな殺人者...こんな奴にだけはなりたくない、ならなくて良かった。
そうとしか思えなかったから。
森田剛はそしてジャニーズはよくこのオファーを受けましたよね。
相当な覚悟の上の決断だったでしょう。
森田剛のファンは大丈夫ですか?
こんな剛くん観たくない!
と泣きながら劇場を飛び出し、監督に不幸の手紙を100通くらい出してもおかしくないところですが。
僕は今作で森田剛が好きになりました。
役者、森田剛の気概を見た!という感じです。
その演技力の凄さには月影千草先生も
「おそろしい子!」
と白目をむいて言ったことでしょう。
さて物語は終盤に向い森田と岡田、ユカ、安藤それぞれが対峙する事になります。
森田vs岡田
森田vsユカ
森田vs安藤
それぞれがどの様な順番で対峙しどの様な結末を迎えるのかは、忠告を聞かず未見なのにここまで読み進めてしまった人の為に伏せておきます。
でもまさか、あのムロツヨシに泣かされる事になるとは思わなかったなぁ...
追伸、この作品ヒメアノ~ルだっけ?ヒメノア~ルだっけ?ってなるのは僕だけでしょうか?
あなたもそうなら、それは間違いなくコメダ珈琲のシロノワールのせいです。
最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・ヒミズ
・冷たい熱帯魚
・さんかく