人は大きく分けると2種類しか存在しません。
「待つ人」と「待たせる人」
あなたがどちらなのか分かりませんが、もし「待たせる人」だったなら大いに反省するべきです。
待たせるというのは相手への配慮に欠ける行為であり時間を奪う行為です。
決して褒められる様な事ではありません。
しかし、例外的にどれだけ人を待たせても許される存在がいます。
週刊誌に連載しておきながら定期的に数年休む某漫画家、
ご機嫌次第でライヴを遅らせ 時には帰ってしまう某アーティスト、等々
そう、天才と呼ばれる人々です。
そして今回紹介する映画の監督
パスカル・ロジェ
彼も間違いなくその1人です。
あの胸糞神映画「マーターズ」を生み出した男の実に6年ぶりの新作
さぁ皆さん、お待たせ致しました。
トラウマのお時間です。
2019年/フランス
監督:パスカル・ロジェ
出演:クリスタル・リード、アナスタシア・フィリップス、エミリア・ジョーンズ、テイラー・ヒックソン、ほか
上映時間:91分
85点
ざっくりあらすじ
双子の姉妹ヴィラ(姉)とベス(妹)は母と共に亡き叔母の家に移り住む事になった。奔放なヴィラに対し内向的なベス、2人は双子でありながら真逆の性格をしていた。そんな姉妹とシングルマザーの新しい生活は新居に到着してすぐに壊される。2人の暴漢の侵入によって...
こんなに普通の毎日の中で
出会ってしまった二人
待ちに待ったパスカルロジェの新作、僕の評価はどうかと言うと
流石に「マーターズ」超えとまではいきませんが、85点という高得点が示す通り
大いに満足出来る素晴らしい作品でした。
が、周りの声を聞くとあまり評判はよろしくない。
WHY?
しかもパスカルロジェを好きな人ほど酷評している
WHY?
いったいパスカルロジェにどんな映画を求めてたんでしょう?
僕が思うにロジェ映画の魅力とは
驚きと残酷と美
今作でもそれはいかんなく発揮されていました。
それをまだ未見の人と酷評されてる方々にお伝えする為、
今回は僕の感想を交えながらあらすじを追っていきます。
ざっくりあらすじの通り、新居に到着してすぐ2人の暴漢が侵入し3人を襲います。
知的障害の巨漢男と筋肉質な女装男。
そんな2人組ですから女性3人を襲うといっても性的な目的ではありません。
金銭目的でもありません。
では何か?
暴力と殺戮
最低最悪な侵入者です。
おおよそ人としての感情などなく3人を無慈悲に襲います。
女性が男から暴力をうけ泣き叫ぶ映像、正直気分の良いものではありません。
(嘘、本当は僕こういうのけっこう好き←最低)
が、ここで予想外に母が頑張ります。
ボロボロになりながらも娘を襲う巨漢男、女装男を殺害。
母は強し!
傷つきながらも3人は無事生還したのでした。
ここまで約20分。
いわゆるホームインベージョン(家宅侵入)ものです。
これだけで1本の映画として成立し量産されてる人気のジャンルですが、
ロジェにとってはほんの導入部に過ぎない
こんなものダラダラ見せるモノでもないとばかりに20分でサッサと終わらせちゃいます。
そして映画は16年後に飛びます。
夢ならばどれほどよかったでしょう
未だにあなたのことを夢にみる
16年が経ちベス(妹)は素敵なレディに成長していました。
結婚もし子供にも恵まれホラー小説家としての成功まで手に入れていました。
少女時代のあの惨劇をもとに書いた
「INCIDENT IN A GHOSTLAND」は絶賛大ヒット中
トーク番組に話題のベストセラー作家としてゲストに招かれる程。
そんな幸せの最中1本の電話が鳴ります。
「助けて...独りにしないで...」
悲痛なその声の持ち主は姉のヴィラ。
今もあの家で母と共に暮らしています。
切れた電話にすぐかけ直すも繋がらず、不安になったベスは実家へ。
久しぶりの帰省に大喜びで迎える母。
2人の会話にも花が咲きます。
親子女子会
一緒にお酒なんか呑んじゃったりしてなごむなごむ
て、ゔぉおい!!!!
お前 何しに来てん!
姉ちゃんは?ヘルプミー姉ちゃんはどうした?
「No…Oh No…」
僕の心のツッコミを聞いていたかのようなタイミングでヴィラの嘆き声が。
母によるとあれからヴィラはずっと地下室に引きこもっていたらしい。
素敵なレディに成長したベスとは違いヴィラは幼い頃の奔放さは観る影もなく荒んでいる。
身体のあちこちに痣もある。
ヴィラはまだあの日に閉じ込められてるのか…ショックを受ける僕。
同様にショックを受けるベス
ゔぉい!
お前はあれからも暫くは一緒に住んでたんやろがい!
初見みたいな態度とるな!
またもツッコミを入れてると
「痛い!やめて!お願い…」
何者かに殴られた様に のたうちまわるヴィラ。
幻覚に襲われてる様で実際は自分で傷つけているパターンのやつです。
指もバキバキに折れます。
それをどうする事も出来ず、うろたえるベス。
ロジェ監督、そのパターンはマーターズでもう見たよ。
こう思ってしまったらロジェ監督の思う壺です(僕のことです)
地下室にまた引きこもるヴィラ。
ベスも追いかけますが ぶ厚い扉が閉められて中に入れません。
扉の向こうではまだ悲痛な声が聞こえます。
そしてその声がやみ、少しの静寂の後 囁きかける声
「お前の姉は壊した...次はお前だ」
女装男の声?幻聴?
慌ててその場を離れるベスの横を巨漢男がすれ違う
ヒッ!
幻聴に続き幻覚?
ヴィラの恐怖がベスに伝染した?
困惑のベスの後ろから誰かが手をまわ...
した気がした。
どうやら気を失っていたらしく、ベッドで目を覚ます
が、何かがおかしい
体に違和感を感じる。
鏡を覗くと殴られたように腫れあがった自分の顔
?????
何が起こったのか分からず怯えるベス
?????
勘の鈍い僕もまだ何が起こっているのか分かりません。
急いでヴィラの元に行き怒り問う
「いったい私に何をした?」
?????
はぁ?こいつ何言ってんだ?
頭の上?マークだらけの僕ですが、ヴィラの顔が映りようやく解りました。
え?マジで?そういうこと?
勘の良い読者さんはとっくに理解してると思いますが、
後半に続く。
大丈夫だ あの痛みは 忘れたって消えやしない
ヴィラの顔はもう殴る所がないくらい腫れあがり変形していました。
ロジェ監督はいつも作中で女性を残酷なほど痛ぶります。
今回も例に漏れず、あまりに哀れなヴィラの顔。
分かりやすくイメージして貰うならば、ストⅡのガイルがボコられたコンティニュー画面
アレを想像してくれれば良いです。
しかし驚くのはそこじゃない、ヴィラの顔が
幼い!
ボコボコ過ぎて少し分かりづらいが確かに若返っています。
その若い顔のヴィラが妹に言います。
私は壊れた…次はあなたの番
何かしたのは私じゃない
目を覚ませ!現実を受け入れろ!戻ってこい!
ベス…私たちは
まだここにいる
あばばばばばばばばばば
えらいこっちゃ、えらいこっちゃ
閉じこもってたのはヴィラじゃなくてベスでした。
16年の時なんて過ぎてなくて
NOW!今!現在進行形で惨劇は継続中ing.
あまりの恐怖にベスの精神は耐えられず妄想の世界に逃げてたのでした。
素敵な旦那さんも可愛い子供も、勿論作家としての成功も全部全部妄想
しかもその妄想は全て監禁された地下室にあるもの、壁のポスターや絵、飾られた写真などで構成されてましたぞ。ぞ〜〜
じゃあ?オカンは?オカンはどうした?
オカンは暴漢を撃退などしていません、現実をベスが思い出します。
女装男に胸を何度も刺され首をかっ切られる母の姿を
全てを理解したベスは少女の姿に戻っていました...
あわわわわわわわわわわ
僕はこの展開に驚き腰を抜かしてた訳ですが
どうやら不満組のガッカリはここにあるようです。
何度も観たことある、ありきたりの展開だとかなんとか…
F◯CK YOU!
マジでか?
いや、これがオチなら僕も同じ感想をこぼしたかもしれません。
でも映画はまだ中盤も中盤。
パスカルロジェという監督はいつもそうです。
マーターズでもトールマンでも丹念に物語を積み上げて中盤でそれを
バーーンッ!と崩してしまいます。
で、その残骸にまた物語を積み上げる。
普通の監督がゴールとするところからロジェ映画はスタートするんです。
ありきたり?
ではないと思うのですが…
はい、じゃあもう少しあらすじを追いましょう
最低最悪のタイミングで現実に意識を戻したベス。
姉に変わり今度は自分が痛みと恐怖に晒される番です。
姉は妹に2つのアドバイスをします。
「隠れろ」「何があっても動くな」
アドバイス通り身を隠しますが、あっさり女装男に見つかってしまいます。
女装男はベスに
ドレスを着せ
おしろいをし
真っ赤な口紅とピンクのチーク
あっという間にベス人形の出来上がりです。
喜々とする女装男
あまりに意味不明でコワすぎ。
しかも化粧室には
首がざっくりオープンタイプのお母さんが飾ってありました。
壊れた人形のように...
そうして仕上がったベスを女装男が別の部屋へ連れて行きます。
そこは人形だらけの部屋。
何体もの人形の中にベスを陳列し、なぜか顔を横に向けさせ女装男は部屋を出ます。
そこにあの巨漢男が入ってきて遊び相手の人形を物色
幸いにも選ばれたのはベスではなく隣の人形
ご機嫌に遊ぶ巨漢男ですが、人形の自動音声に癇癪を起こします。
イーーーーーッ
殴りつけ指を折りバーナーで腕を焼き…
お仕置きとばかりに痛めつけられる人形
その姿は自然とヴィラを思い浮かべさせます。
お姉ちゃんのあの変形した顔は痣は火傷はこうして造られたのか…
結果(ヴィラ)を先に見せて工程(人形)を後に見せる。
そしてこれから起こるであろう未来(ベスの姿)を想像させる。
狡猾で残酷なロジェの恐怖演出にすっかりゴールデンボールが縮み上がった僕ですが、ベスの感じてる恐怖はその比ではありません。
「何があっても動くな」
姉のアドバイスはここにあったのです。
そして女装男が顔を横に向けさせた意味も…
動いて巨漢男に見つかったら選ばれる
選ばれたら次に壊されるのは自分。
でも恐さの分だけ人形が気になり見ずにいられません。
首が自然と前を向く。
その動作に巨漢男が気づきそうになるとすぐに横を向き動きを止める
地獄のダルマさんが転んだゲーム
心臓バクバクです。
やめて みつけんといて 選ばんといて
懇願する僕ですが映画の展開的にそれは許されません。
哀れベスは次の遊び相手に選ばれてしまいます。
恐怖のあまり
じょぼぼぼぼぼぼぉ
盛大にお漏らししてしまうベスを誰が笑えましょう
なんだったらこっちだって大失禁です。
さぁこれからのベスは大変です。
タイトルにあるように
トラウマが暴走します!
どのように?
気になるところですがこれ以上は流石に怒られそうです。
あらすじを追うのを止めましょう。
長文お付き合い有難うございました。
あらすじを追うのは止めますが僕の感想はもうちょっと続きます。良ければお付き合い下さい。
どんなとげとげな日でも
息してれば明日は来るんだし
泣いた後に咲くその花はso beautiful beautifulさ
先に書いたようにロジェ映画の魅力
驚きと残酷と美
がいかんなく発揮されてました。
え?美がなかった?
未見の方は思うかもしれませんね。
いえいえご安心下さい。
美は書いたあらすじの先にあります。
とびきり美しい絵が用意されています。
あの絵を魅せる為にそれまでの残酷があったんじゃないか?
そう思えるほどの美しさです。
僕が今年観た映画の中ではベスト級の美しさじゃないかな
ご期待下さい。
これで驚き・残酷・美が揃いました。
で、あらためて不満組の皆さまにお聞きしたい。
ロジェ映画に何を求めてたんでしょうか?
映画の感想なんて人それぞれだから賛否があって当然なんですが
パスカルロジェが好きでこれほどロジェの魅力が詰め込まれたこの映画が嫌いというのが不思議で仕方ないんです。
僕はそれぐらい満足したので...
何が足りなかったのかな?と
で、考えたんですが、たぶん、たぶんですよ、
刺激が足りなかった
じゃないでしょうか?
確かにマーターズと比べるとだいぶ刺激控えめなので、それが理由なら理解出来なくもないです。
でもロジェファンで今作不満組の方に再評価して貰う為に
もう1つロジェの魅力について語らせて下さい。
それは
恐怖を物語で伝える稀有な監督である
という事です。
ま、それはロジェだけではないんですが、ロジェレベルでそれをやれてる監督が今どれだけいますか?て話。
最近のホラー映画と言えば
設定とキャラと絵の分配だけで構成されたものばかり。
アイデア1発勝負みたいな。
絵力押しみたいな。
それはそれで僕も好きなんですが、これ映画で観るから面白いけど
文字にしたらペラペラじゃね?
そんな風に思っちゃったりもするんですよね。
その点パスカルロジェは........
~~~ショートカット~~~
※ウザい能書きとウンチクが2000字くらい続いているとお思い下さい
というクラッシクなホラーの創りをベースにしながら、今の時代にそったあるいは先を行った驚きの仕掛けと残酷な刺激と美しい絵を1作に閉じ込める。
こんな事が出来る監督そうそういませんよ。
そうやって創られたのがこの
「ゴーストランドの惨劇」なんですね。
ね?言われてみれば...て気になりません?
再評価に値するんではないでしょうか。
てか、なってくれ!
という訳で未見の方と不満組の方に訴えるべく僕なりにこの映画の魅力をお伝えさせて頂きました。なんとかご理解頂けた事を期待して締めの文章へ移ります。
さて、この作品までの6年間はパスカルロジェが好きな人ほど長い時間でした。
その待たされた時間の分だけハードルが上がり、不満を感じた人もいたのでしょう。
でも僕は鑑賞して
これなら待たされても仕方がない
次の作品も待たされるだろうけど期待して待とう
そう思う事が出来ました。
それだけのクオリティだったと確信しています。
やはり冒頭に書いた通り
才ある者はどれだけ待たせても許される。
そして人は才ある者を忘れることは出来ない。
のでしょう。
パスカルロジェに尊敬の念を贈ると共に
才もない癖にブログの更新を2か月以上待たせた自分を恥じ読者さまにお詫び致します。ごめんなさい。
次はもう少し早く更新するから忘れないで下さい。
ではまた次回。
追伸、美しい絵が待っていると伝えたことで
じゃあこの映画はハッピーエンドなんだな
と予測した未見のあなた、
ロジェをまだ解っていない。
ロジェはその美しささえ
いともたやすくぶち壊しますw
じゃあバッドエンド?
う~ん、それもどうでしょう?
是非ご自身の目でご確認下さい。
面白いのは間違いない!
はずですから...
最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・マザー
・マーターズ
・トールマン