アノ映画日和

年間500本以上鑑賞、あらゆるジャンルの映画をイラスト付きで紹介

「カメラを止めるな!」感想 ポンでもない映画を観てしまった!

 

まだこの映画が大ヒットする遥か前、
「ケンとカズ」の小路監督が自身の作品を差し置いて、この映画を大プッシュしていた。
これは観なければ…と思うものの、上映している劇場が全くない。
どうしようと悩む中、鑑賞者の口コミや著名人の推薦により映画は異例の大ヒット。
瞬く間に上映館は広がる…が、おらが村にはまだ来ない。
いつか来る事を信じ待機。
その間ネタバレを嫌う僕は一切の情報を遮断
が、大ヒットに比例して攻撃力が増すネタバレ情報。
更には盗作疑惑だか何だか知らないがテレビや雑誌までが必死にネタバレをかまして来やがる。
僕の防御力にも限界がある、もはや ここまでか…と諦めかけた時

遂におらが村に「カメ止め」がやって来た!
観て来た!

僕はネタバレに勝った、今度は僕の攻撃ターンだ。
僕は遠慮も配慮もするつもりはない
ネタバレを嫌う未見の方は僕と同じように自分で身を守って下さい。

よろしくでーす。

2017年/日本
監督:上田慎一郎
出演:濱津隆之、秋山ゆずき、しゅはまはるみ、真魚、長屋和彰、大沢真一郎、ほか
上映時間:96分

f:id:hagane-mk:20180923203144j:image88点

ざっくりあらすじ

うだるような夏の暑い日、TVディレクター 日暮はある打ち合わせをしていた。
8月より始まるゾンビ専門チャンネル開局記念ドラマの打ち合わせ。
プロデューサーは告げる。
「ゾンビ映画を撮っていた撮影隊が本当にゾンビに襲われるという脚本なんですが」「はぁ...」
「完全生中継、しかもカメラは1台、ワンカットのゾンビ映画を撮って貰いたい」
「ゾンビもので?...生?...しかもワンカット?」

出来る訳がない!

日暮は断ろうとしていた
が、状況と運命が日暮の背中を押した。
ムチャでもなんでもやるしかない。

ONE CUT OF THE DEAD

今、誰も見たことがない
熱いゾンビ映画の撮影がはじまろうとしていた...

カメラの中3秒間だけ僕らは
突然恋をする そして全てわかるはずさ

「ゾンビ映画」「コメディ」「2部構成」

僕が鑑賞にあたり装備して行ったのはこの3つの情報だけ。
我ながらこの守備力は素晴らしいと思う。
映画雑誌、映画ブログは当然スルー。
ツイッターのTLも読まず、リプもガン無視。
この映画を最大限に楽しむ為に僕は非情に徹した。

さていざ鑑賞。

落ち着いて鑑賞したいので平日の午前中の回を選択
お陰で後ろにBBAの2人組、あとはバラバラッと散ったような席具合。
万全の状態を整えたと言えよう。

そして待ちに待ったゾンビ映画が始まった。

「この映画は2度はじまる」

このキャッチコピーから2部構成であることは分かっていた。
僕が想像していたのは
1部では映画製作チームがゾンビ映画を撮影
2部で本物のゾンビが現れ、スタッフは逃げ惑うも監督はこれに乗じて

「カメラを止めるな!演技を続けろ!」

と、映画史上誰も観たことがない本物のゾンビが出演するゾンビ映画を撮ろうとする。
そんなコメディ映画。

どや!

違った!

そんなのは第1部の初っぱなでやってしまっていた
そりゃそうだ、僕が予測出来てしまうような映画がこんなに大ヒットする訳がない。

早々に予想をやめ鑑賞に集中。

タンクトップにデニムのホットパンツのヒロイン
人里離れた廃墟
ノロノロ歩きのゾンビ

王道アイコンが揃っているが、

意味のないセリフ
無駄な間
変なカメラワーク…etc

ゾンビ映画好きほど違和感を感じる演出の連続。
でありながら やたらカッコいいラストショット。

ふむ、これはこれで面白い…とあっという間に40分が経ちエンドロールが流れ始めた。
すると後ろでひそひそ声が…

BBA 【A】「え?もう終わり?」

BBA 【B】「あんまり怖なかったな」

ぶフォw

BBAどんだけ予備知識ないねん!
守備力最強かよ!時間感覚0かよ!

不覚にも僕のカメ止め初笑いはBBAに奪われてしまった。
そのまま帰っちまえと思ったが、すぐにエンドロールは終わり

「あ」

と言う BBAの声と共に第2部が始まった。
チッ‥帰ってくれた方がネタ的にオモロかったのに

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きっとこの世界の共通言語は
英語じゃなくて笑顔だと思う

第2部の始まりはプロデューサー、ディレクターの打ち合わせから

「史上初、生放送、カット無しのゾンビ映画を放送します」

なるほど、そう言うことか。
最初の不自然過ぎるゾンビ映画のカラクリがようやく分かった(遅ッ!)

なんやかんやで撮影を引き受けたディレクター=監督。
役者陣をはじめスタッフ陣との初顔合わせ。
映画の中では無個性だった連中が実はクセモノだらけの集まりだった。

1部で観た登場人物とのギャップ、また出演していなかった連中の存在に既に吹き出しそうになったが、僕は我慢した。
なんか劇場で声を出して笑うのに僕は気恥ずかしさを感じてしまう。

ONE CUT OF THE DEAD

さぁ、誰も観たことがないゾンビ映画の撮影がはじまる。
が、さっそくトラブル発生。

監督役の俳優と助演女優が事故で来れない。
撮影はもうはじまる、脚本は今さら変えられない、新しい役者を用意する時間もない
脚本を完璧に把握している代役...
結果、監督役は監督自身が、助演女優は監督の奥さん(元女優)が務めることに。

周りからクスクス笑い声が聞こえはじめた。
ふん、笑いのツボのゆるい奴らだ。

撮影が始まっても当然トラブルは連続する。
アル中のカメラマン役、お腹のゆるい録音マン役が予想していた通り離脱。
なんとか場を繋ぐ監督と他の演者たち。

第1部で違和感を感じたアレやコレやが見事に回収されていく。

気が付けば僕はケタケタ声を出して笑っていた。

パニックゾンビ映画だが、その舞台裏はそれ以上にパニックと化していた。
夢中になると我を忘れる元女優の奥さんが暴走し始める。
得意の護身術

ポン!

が次々と炸裂。

僕はゲラゲラ大声を出して笑っていた。
僕だけじゃない、後ろのBBAも、他の客も全員大声をだして笑っていた。
そこに恥ずかしさなど全くなく、

これが劇場のマナーだ!

と言わんばかりに音量など気にせず声を出し手を叩き笑いあっていた。
終盤の怒涛のトラブルラッシュとその奇抜な解決方法の連続には

あれ?満席だったっけ?

と勘違いする程、劇場は笑いに溢れていた。

そして、やたらカッコいいラストショットが来た。
意外過ぎる撮影法と、そこに込められた想い。

劇場は今日1番の笑いの歓声が飛び交っていた。
が、僕は笑っていなかった。

泣いていた。
号泣だった。

泣き笑い?うれし泣き?
自分でも訳の分からない涙が止まらなかった。

そして本当のエンドロールが流れ映画は終わった。

映画を観たというよりは、なにやらスポーツに参戦したような、イベントに参加したような、そんな心地よい疲れを感じ、僕はふぅっと大きな息を吐き背中を思いっきり伸ばした。

新しい日々をつなぐのは新しい君と僕なのさ
僕等なぜか確かめ合う
世界じゃそれを愛と呼ぶんだぜ

鑑賞が終わり僕は余韻を楽しむ為に喫煙ルームでタバコに火をつけた。
まず思い出したのは演者たちの顔だった。

誰一人知っている役者はいなかったが、あの自信に満ち溢れた顔が印象に残った。
彼らはこの映画がこんなに大ヒットするなんて思っていなかっただろう。
この映画で自分が有名人になるなんて想像もしていなかっただろう。

でも、今 私は 俺は 確実に面白い映画を創っている!

それだけは確信していたに違いない。
なぜか僕は彼らが凄く羨ましくなった。

二本目のタバコを咥えた時、ふと3人の監督が頭に浮かんだ。

1人は三谷幸喜。

あの舞台裏のドタバタを笑いにするコメディは三谷さんの十八番だ。
ギャラクシー街道で僕の期待を大いに裏切ってくれた三谷幸喜。
まだその信頼を取り戻させてくれてない。
三谷さんは「カメ止め」を観ただろうか?
観たなら刺激を受けないはずがない

俺ならもっと面白いドタバタが撮れる!

そう思ったはずだ。
次の三谷作品が楽しみで仕方がない。

次に浮かんだのは白石晃士。

予算の有無に関係なくアイデアと演出で面白い映画を撮るのは白石監督の十八番だ。
しかし不能犯にはガッカリさせられた。
当たり外れの差が大きい監督ではあるが、いつでもフルスイングで作品を撮り
白石臭を作品に詰め込む、それが僕の知る監督だ。

なのにあんな無臭映画を
余裕と予算があると人間守りに入っちゃうのかなぁ...
白石監督は「カメ止め」を観ただろうか?
観たなら負けず嫌いの監督さんだから刺激を受けまくったに違いない。

俺ならもっと面白いアイデアを出せる!

そう思ったはずだ。
次の白石作品が楽しみで仕方がない。

最後に浮かんだのは内田けんじ。

計算されつくした伏線の貼り方と回収の仕方は内田けんじ監督の十八番だ。
内田監督にガッカリさせられたことはない。
運命じゃない人からずっと面白い。

でも作品間のスパンが長すぎる!
鍵泥棒からもう何年経ってんだ!

内田監督は「カメ止め」を観ただろうか?
観たなら

負けてらんねえ!俺も次の作品を撮るぞ!

そう思ったはずだ。
次の内田作品が楽しみで仕方がない。

この映画は彼らのような有名監督だけでなく、あらゆる映画に携わる人に大きな刺激を与えただろう。
そのクオリティに平伏すのではなく、
俺だってヤレる!といった類の闘争本能に火を着けるような刺激を。

これから日本の映画は変わる。

胡坐をかいていた監督は立ち上がり、まだ映画に携わってすらいない人をも映画に導くだろう。

喫煙ルームの扉を閉めながら最後に思った。
なぜ僕は泣いたんだろう?

きっとこの映画に携わった人の映画に対する愛情を受け取ったから
その愛にまだまだ日本映画はヤレるという可能性を感じたから。

きっとそうに違いない...僕は

ポン!でもない映画を観てしまったんだ。

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追伸、この映画の大ヒットにより主演女優の秋山ゆずきも大ブレイク。
彼女が昔に出したイメージビデオ「ゆずゆず」は数万円で取引されるほど高騰。
重盛さと美と逢坂愛を足して2で割ったようなビジュアルに僕もすっかり虜になりました。
で、さっそくTwitter、Instagramの垢をフォロー。
「カメ止めを観てファンになりましたうんたらかんたら」
とリプ。

が、ガン無視!
当然のようにガン無視!

ネタバレ防止でリプスルーしてたツケがこんな所で返ってくるとは...
皆さん、フォロワーさんからのリプは細目に返しましょう...しょぼぼん

 

最後にこの映画を好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・ラヂオの時間
・カルト
・運命じゃない人