殺人や犯罪に関する映画が好きです。
邦画で言うと「冷たい熱帯魚」「凶悪」「怒り」など
人間の弱さと残酷さを描いた映画たちです。
今作「ユリゴコロ」
「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか」
予告でこのセリフを聞いた瞬間に先の映画と同種の匂いを感じました。
そして悪趣味である僕はその匂いに誘われました。
また、闇が観れるな…
しかしその期待はある意味満たされ、ある意味裏切られました。
今回はその辺について書きます。
2017年/日本
監督:熊澤尚人
原作:沼田まほかる
出演:吉高由里子、松山ケンイチ、松坂桃李、佐津川愛美、木村多江、ほか
上映時間:128分
79点
ざっくりあらすじ
婚約者に姿を消された亮介(松坂桃李)
途方に暮れるが、オープンしたてのレストランを休業する訳にも行かず、なんとか日常を取り戻していった。
そんなある日、余命僅かな父の書斎で1冊のノートを見つける。
表紙には「ユリゴコロ」というタイトル。
そこには1人の女性による殺人の告白が綴られていた..
あの偉い発明家も 凶悪な犯罪者も
みんな昔子供だってね
観た!
面白かった!
しかし80点台を点けようとする僕の手は止まった。
どこか感じる不満。
何だろう...?
それを確かめるように3回鑑賞。
なんとなく気づけたことがありますので、まずはあらすじを追い
その後、ご説明させて頂きます。
物語は現在とノートに綴られた過去2つのパートに分かれ往き来します。
はじまりは現在から
ざっくりあらすじに書いた事が次々に起こります。
亮介(松坂桃李)はレストランを経営しており婚約者に逃げられて父親は膵臓癌、父を訪ねてノートを見つける、
所要時間、僅か7分
あまりに駆け足で状況説明を終える現在パート。
なぜそんなに急ぐ
ノートを読み始める亮介。
「私のように平気で人を殺す人間は、脳の仕組みがどこか普通と違うのでしょうか」
例の言葉からさっそく映像は過去パートに切り替わります。
診療所に無口な幼い少女(ワタシ)と母親。
「お子さんには、どうやらユリゴコロがないようです」
先生は母親に伝えますが、学のあまりない僕はそのユリゴコロという言葉に
???
となっていました。
百合心?揺り心?
そんな僕の疑問に答えるかの様に先生は続けます。
「言葉を発するには、心が安全な場所で生きているという なんらかのユリゴコロが必要なんです」
???
さっぱり分かりませんが、とにかくワタシはユリゴコロがないので思いを言葉に出来ず、人とコミュニケーションが上手く取れない様です。
ワタシはユリゴコロを必死に探します。
最初に見つけたのがミルク飲み人形。
人形にゆり子と名付け1人遊ぶのですが
服を脱がせてお尻の穴からミルクを入れて口から吐かせるという遊び
完全にサイコちゃんです。
でもゆり子がユリゴコロになってくれたおかげで、少し人と話せる様になります。
ミチルちゃんという同級生の友達も出来ました。
友達というよりは大勢の中に混ざっていても別に気にされないという存在ではありますが。
ミチルちゃんが他の子と遊んでいる間、ワタシは井戸に虫やヤモリやミミズを入れ時間を過ごしていました。
分かり易くサイコちゃんです。
他の子が帰ったのでミチルちゃんが近寄って来ます。
帽子を無くして困っているミチルちゃん。
その帽子は少女が生き物集めに使っていたので、そっと帽子を渡します。
すると中からカエルが跳び出し、驚いたミチルちゃんは後ろの川に落ちてしまいます。
そう深くない川ですが、どういう訳か片足が枯れ枝に絡まり仰向け状態でアップアップ
このミチルちゃんの溺れる様がかなり怖く
僕はトラウマ映画「震える舌」のまさこちゃんを思い出してブルッてしまいました。
ワタシは助けるでもなく、溺れ死んでいくミチルちゃんをただ眺めていました。
その時の心境も語られます。
ワタシはそれまで喜んだり笑った事がありませんでした...
けれど初めてそれに近い感覚を持ったのです...
その日から死がワタシのユリゴコロに変わったのです...
ぞ~~
未見の方、大丈夫でしょうか?ここから更に残酷なシーンが続きますが?
ワタシは中学生となり、自分が世界の誰とも心を通わせられない生き物だと自覚するようになります。
頭にあるのは常にユリゴコロ(死)
そんな時にミチルちゃんによく似た女の子と小学生のお兄ちゃんがワタシの前を通ります。
2人を凝視するワタシ。
すると女の子の被っていた帽子が風に飛ばされ道路の溝に落ちます。
溝には鉄の溝蓋が敷き詰められてあり隙間に滑り込んだ帽子は手を伸ばしても取れません。
そこに大学生風の男性が通りかかり声をかけます。
事情を聞いた大学生は重い溝蓋を持ち上げ、今のうちに取れとお兄ちゃんに告げます。
重い溝蓋を持ちプルプルしている大学生の横にスッと手伝う手
ワタシの手です。
手伝うふりをしていますが力は全く入れていません。
大学生の筋力も限界に近いです。
その時、ワタシは下に力を入れます
すると鉄蓋が
ガッシャーーン!!!
少年の首を挟み、あたりに血が広がります。
痙攣する少年の脚、泣き叫ぶ女の子、呆然と立ち尽くす大学生、
満足げにその場を去るワタシ
ぞぞ~~
そこにワタシの語りが重なります
ユリゴコロという言葉が実際にないことは既に知っていました。
たぶん子供の頃の医者は拠りどころと言ったのでしょう。
でもそんな事は問題ではなくなっていました...
上手いですね。
既にユリゴコロという言葉がワタシの中で拠りどころよりも強い概念となっていて、この物語の重要なワードであることを告げています。
ここまでで映画は17分、僕は既にホラー映画を1本観たくらい満足していました。
温かさを感じた 血にまみれた腕で
踊っていたんだ
再び現在、亮介の元に婚約者 千絵の友人と名乗る細谷(木村多江)が現れます。
偶然、東京で千絵と再会し、
「結婚を約束している男性がいるけど今はどうしても会えない事情がある」
そう伝えて欲しいとここの住所と貴方の名前を知らされたとのこと。
取り敢えず、千絵の無事を知ってホッとする亮介。
再び、実家へ行きあのノートを読み始めます。
ワタシは大人になり、ようやく吉高由里子の登場です。
あの後、調理の専門学校へ通い、レストランで働き1年後に退職、その後娼婦となります。
この間に3人殺害します。
1人は自分に付きまとうラーメン屋のバイト君を階段から突き落とし殺害。
1人は専門学校の同級生でリストカット癖のあるみつ子の手首を深く裂き殺害。
(ここのエピソードだけで1記事書きたいぐらい好きなとこだけど、文字数的な問題で割愛)
もう1人は娼婦になってから再会したレストラン勤務時代の先輩を撲殺。
この映画の殺害シーンは映像も生々しいのですが、音が凄く不快にさせます(もちろん褒めてます)
特にリスカのシーンでは僕は目も耳も塞いでしまいました。
普段、グロいホラー映画ばっか観てる癖に、こういうカッターとか注射とかそんなのはダメなんです。
頭がボーンと破裂したりするのは全然大丈夫なんですが...
再び現在
細谷が千絵の状況を知らせに来ます。
千絵は既婚者でした。
しかも相手はヤクザ
娼婦として働かされ限界を感じ逃亡、そして亮介と出会った。
しかし夫が居場所を突き止め連れ戻される。
今は何処かに監禁されている状態。
事情を知った亮介。
それでも千絵を取り戻したい。
細谷になんとか居場所を突き止めて貰えるようお願い。
細谷からの連絡を待ちます。
連絡が入るまで亮介はどうするか。
ノートを読みます。
なんでやねん!
気になるのは分かるけど、
普通は細谷に任せるんじゃなくて一緒に探しますよね。
ま、僕もワタシの続きが気になってたから良いけど
今日わかった また会う日が
生きがいの悲しい Destiny
お金も底をつき路頭に迷ったところでワタシはアナタ(松山ケンイチ)と出会います。
娼婦として声をかけたのに、アナタは何も求めずお金だけをくれます。
それから最初に会った小さな橋に行く度にアナタは必ずワタシを待ってくれるように。
何度も会う内にワタシはアナタにユリゴコロを持ちはじめ
そしてアナタにユリゴコロを感じる度に、ワタシはいつアナタを殺すのだろう...そればかりを考える様になります。
アナタはワタシに何を思ったか?
愛?
いえ、この段階では愛ではありません。
罪人である自分(アナタ)が一緒にいてこんなに落ち着くのは、ワタシもやはり罪人なのでは?
そう考えていました。
アナタが罪人?
疑問を感じたワタシは質問します。
アナタは罪人なんですか?
アナタは答えます。
子どもを殺したんだ
大学の頃、溝に落とした帽子を拾おうとしてる男の子がいて、溝蓋を持ち上げたんだ。
でも途中で重さに耐えられなくなって、溝に首を入れていた男の子の上に...
あわわ、あわわ、あわわわわ...
あの鉄蓋の大学生がアナタ...
なんて残酷な出会い、運命
ワタシも相当驚いた顔をしていましたが、僕も負けない程驚きました。
あれ以降アナタは喜びを感じる度にあの日の少年を思い出してしまうそうです。
だから女性を抱く事も出来ません。
のうのうと生きてる自分を恥じ喜びを禁じる様に生きています。
ワタシ風に言えば
アナタのユリゴコロは贖罪です。
そして運命は追い打ちをかけます。
ワタシは誰の子かも分からない子を妊娠していました。
堕ろす事を考えるワタシですが、
アナタはその子を産み共に育てる事が2人の運命だと強く主張。
ワタシはそれを受け入れます。
こうして性的不能の父親と娼婦の女の間に運命的な子どもが生まれました。
子を産むと同時に憑きものが落ちたように、ワタシの中にあった黒いものが消えて行きます。
アナタも心が少し許されたのか、ワタシを求めます。
そして2人は初めて体を重ねます。
これまでのワタシにとってセックスとは肉の解体作業のようなものだと感じていました。
ただ男にされるがまま体を提供するだけ。
あまりに違うアナタとのセックスに私は怖くなります。
アナタの優しさには容赦がありませんでした
ワタシはそう表現していました。
なんて素敵な表現なんでしょう。
この一言の為にこの物語は創られた
そう言っても過言ではない気がします。
こうしてワタシは生まれて初めて嬉しいというものを感じます。
ユリゴコロは
ミルクのみ人形→死→殺し→みつ子(死)→アナタを経て
幸せ
に辿り着きました。
それが数年続きます。
が、またも運命が再びワタシを殺しへ導きます。
ようやく手にした本当のユリゴコロ。
殺人鬼にそれは許されないのでしょうか?
ワタシ、アナタ、そして子供、3人に待ち受ける運命は?
よき所であらすじを追うのを止めたいと思います。
未見で気になる方は是非、この先をご自身の目でご鑑賞下さい。
長文お付き合い頂き有難うございました。
やっぱ好きやねん やっぱ好きやね~ん
悔しいけどあかん あんたよう忘れられん
さてさて、未見者も帰ったことだし不満点をぶちまけましょうか。
え~と、あの後の展開は
・ワタシの過去の犯罪を知る男が現れそいつを殺す
・ワタシがユリゴコロを書いて自殺を図る
・アナタによって助けられるもノートを読まれる
・ワタシ、アナタと子供の前に二度と現れない事を誓って姿を消す
・亮介、ワタシの子供が自分であると確信
・細谷の情報で千絵の監禁場所が分かり、やくざを殺しに向かう
・既に何者かによってヤクザは殺されており千絵を連れて帰る
・何者か=細谷=母(ワタシ)だと確信
・亮介、母を殺そうとするも出来ず
・母と父、病室で再会。
こんな感じでしたよね?
まず不満として過去と現在の物語の濃度が違い過ぎる!
過去のエピソードは濃密で常に緊張感がありますが、現在の描かれ方はイマイチ緊張感に欠けます。
なので本来、過去と現在が交わる所で化学反応を起こすはずが、まじってぬるま湯になっただけという勿体なさ。
尺を3時間にしてでも、現在をもっとしっかり描くべきでした。
特に亮介の千絵に対する愛が全く感じられない。
愛する人が監禁されてるという結構シビアな状況なのに、ノートに対する負の感情ばかりが描かれています。
俺は殺人鬼の子供なのかぁ~って怒るシーンも大事だけど
もう少し亮介が千絵を心配し思う描写を入れないと
ムカデ踏んでる場合違うで。
次、
数奇な運命が多すぎる!
アナタが溝蓋の大学生だなんて...
アナタを地獄に堕としたことで、ワタシはアナタに出会い愛し合う事が出来た。
なんて残酷で哀しい運命なんだろう
心臓を鷲掴みにされた様に胸が苦しくなります。
これは良いです、偶然というより必然を感じさせます。
でもこの後に、
ワタシと千絵が偶然職場で出会って友人となり、偶然街で再会し、そして偶然にも我が子と愛し合う関係になってたなんて...て
そんなに偶然、奇跡が重なるかね?
明らかに多すぎるて!
こう偶然、奇跡を重ねられると、運命というより物語の都合上って感じが強くなっちゃいます。
鷲掴みにされた胸も楽になってしまいます。
ファンタジー映画なら幾つでも重ねれば良いですが
この手の映画はフィクションとリアリティのバランスを大事にしなくてはいけません
偶然、奇跡を重ねるほどフィクションが強くなってしまいます。
普通に我が子を常に陰から見守っていた。
我が子が愛した人も調べていた。
だから我が子の窮地に現れた。
ではダメだったんでしょうか?
というか、そうじゃないとダメな気がします。
じゃないとユリゴコロを無くした彼女が顔を整形してまで生きていた理由が分からないんですよね。
ユリゴコロ無しでも生きれるんかい!
て事になっちゃいますから...
以上が僕が今作に80点台を付けれない理由です。
と散々文句を言っておきながら何なんですが
好きか嫌いかを聞かれれば
僕はこの映画が大好きなんです。
まずキャストが素晴らしいでしょ?
吉高由里子は久々の本領発揮だし
松山ケンイチは流石の演技だし
木村多江のあの幸薄顔の色々背負ってる感が堪らないし
あ、佐津川愛美も良かったですね。
彼女はどんどん女優として良くなっていますね。
え?松坂桃李?
あ....うん、彼は悪くなかったけどちょっと持ってる雰囲気と役があってなかったかな?
彼は分かり易くイケメンで華があるでしょ?
不幸を背負うというよりは不幸にするタイプでしょ?
だからなんとなく物語と調和してないなって...
酢豚に入ってるパイナップルみたいだなって...
ファンの方々、すみません(汗)
で、で、どうのこうの言いながら物語がやっぱ良いんですよ。
殺人鬼という汚らわしい存在を見せておきながら
鑑賞している間にそれを美しいとすら感じさせる構成。
感心します
ニュースで凶悪事件を見るとその被害者に同情し加害者を憎みますが
このように加害者の目線で物語を見せられると、許してしまうどころか感動すらしてしまう。
人は視点によって都合よく感情を変えてしまう愚かな生き物だ
そう言われている気がします。
こんな形で望んでいた闇をみせられるとは...
やっぱ好きやねん!
おそらく僕はまた闇を求めてこの映画を観ると思います。
そしてその時は80点以上の点数をつけるかもしれません。
感想が二転三転して申し訳ないですが仕方ないのです。
人は視点によって感想を変えてしまう生き物なんですから...
追伸、亮介の父親役、3回観るまで生瀬勝久さんだと思っていました。
何でキャストに名前がないんだろう?
と不思議がっていたら全く別の役者さんでした。
う~ん、僕の視点はかなり当てにならないですね。
最後にこの映画が好きな方にお勧めしたい作品を紹介して終わります。
・怒り
・紙の月
・八日目の蝉